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第4話:
「俺、すっげー見るから、俺に見られてるって思ってやって」
「ちょっと……そういうの、やめてよ」
さきほどのやりとりを思い出したのか、再び望月の頬に赤みがさす。
「おまえのいやらしいとこ、俺がめっちゃ見てるからそれを意識しろ」
「だからさ……そんなこと言われたら恥ずかしくて、集中できなくなるじゃん」
「それがいいんだよ。じゃ、頑張れ」
それだけ告げると、大橋はカメラの後ろに、ちょうど望月の真正面にあたる位置に腰をおろし、あぐらをかいた。さきほどは横から眺めていたが、今度はしっかりと特等席だ。
「じゃ、始めるぞ。とびきり、いやらしくな」
その大橋の言葉に望月は困惑していたが、渋々、傍らに置いてあった黒縁メガネをかける。大橋はスマホのビデオを起動した。
「こんばんは……ソウです。よろしくお願いします」
さきほど撮影したときは澄ました顔で自己紹介をしていた望月が、見られていることを意識しているのか、今はおどおどしている。そんな望月の動作をひとつも見逃さないよう、大橋はまっすぐに視線を送る。
正面にいる大橋の視線から逃れるように、うつむいたまま、望月は下着の上から自分のそれを優しく下から上へと撫でる。布地の上からその形状に沿って、ときには握り込みながら、そのカタチが見えるようにしている。その穏やかな布地の膨らみが、平常時の柔らかさを伝えてくれる。
大橋は微動だにせず、その局部と望月の顔を交互に見比べる。ちょうど局部を見ている大橋の視線に気づいたのか、望月は顔ごと視線を背けた。その頬は大橋を意識してか、ほんのりと赤く染まり、口は一文字に引き結んでいる。それでも大橋は、見続けるのをやめない。
望月が局部を撫でる手が往復するうちに、徐々に布地の隆起はカタチを帯びてくる。やはり、望月は見られることで興奮するんだと確信した。そうでなければ、何もオカズなしに、勃起することは難しい。二回目だというのに、さきほどよりも早く反応したということは、明らかに大橋の目を意識している証拠だ。
「ふ……」
閉じられた口から望月の吐息が漏れる。撫でている指が先端をかすめると、先端の部分の布地にじわりと濃いグレーの染みが広がり、先走りが溢れ始めている。上を向いている望月の局部は、八割位は勃起していると思われる。
その状態を見計らって、大橋は固定しているスマホのカメラを起動させたまま、外した。取り外しの際に、画面が多少揺れたと思うが、このあと自由な画が撮れるとなれば、それくらいは見ている側も苦にならないだろう。
***
大橋は望月の足先から脛、膝にかけて、ゆっくりと撮影し、下着全体を画面に収める。それを見計らってか、望月も下着の中に右手を差し入れた。
「んんっ……ふ…」
自分の触れた感触の、刺激が強かったのか、甘い声を漏らす。
そして局部を撮り続けながら、大橋は感触を味わい始めている望月の顔を至近距離で見つめた。
「ん……」
視線がぶつかると、見つめられていることに気づいたのか、羞恥からなのか、望月は顔を歪ませた。黒縁眼鏡の奥の瞳は不安げに揺れ、それでも茶色がかった黒目は大橋を捉えている。
――すっげー見るから。
大橋は宣言通り、望月を見続けた。望月の左側から局部と顔の表情が映るようにカメラを構える。
「ふっ……ううっ…」
下着の中で膨れた局部を握りこんだ手はさきほどよりも激しく上下に動いている。先走りの液で濡れた手から、ぐちょぐちょと水音が部屋に響く。望月は、時折、大橋と目を合わせ、恥ずかしさからなのか、手の動きを止める。しかし迫る絶頂の気配を察した手は、再び、動きはじめ、望月はまた声を漏らす。快楽と理性が混ざり合っているのが見ていて感じ取れる。そんな望月を大橋は見つめ続けた。
「はぁ……あっ、ああっ…」
徐々に理性が遠のいているのか、望月は自分の吐く息で眼鏡が曇っても、構わず下着の中で手を上下に扱き続けた。欲望が冷静な判断をさせなくしているのがわかる。いつしかM字に開かれていた足は立ち膝の格好になろうとしていた。腰を起こして、膝をつくと、左手は下着の後ろから奥に向かって差し入れられる。下着の中で前の竿をしごいている右手と連動し始める。
「ふぁっ……はぁっ…」
左手はおそらく望月の後ろの蕾を刺激しているのだろう。画面には見えていなくても、望月の喘ぎ声の変化に、その動きを感じ取ることができる。膝をついて、背を反らし、大橋を肩越しに見つめるようにして、細められた目元に僅かな羞恥の色を残しながら、それでも望月は、まもなく迎える絶頂に向かい、自分自身を愛撫していた。
「あっ……アッ、イク……イッ…ちゃう…」
望月の絡みつくようなまなざしは、もうイキたい、出したい、と大橋に向けて乞うようだった。
全体図を画面に捉えながら、大橋は望月の目を見つめ、ゆっくり頷いた。言葉に出さずとも伝わった望月の願いに、いいよ、イケよ、めいっぱい出せ、と応えるかのように。
「アアッ……!」
背を丸め、体をびくんびくん、と大きく震わせる望月に、大橋はずっとカメラを向け続けた。息を荒げる望月がようやく顔を上げて、その目に冷静が戻ったのを見計らい、大橋はようやくカメラを止めた。
***
「おつかれさん」
「はぁ……はぁ…」
さきほどの撮影に比べると、ずいぶんと疲弊しているように見えるのは、きっとさっきよりも興奮したのだろう。
「見違えるほど良くなったと思うぜ」
大橋は傍らのティッシュ箱を望月の顔の前に置き、スマホもそばにあったガラステーブルの上に置いた。
「下着汚れちまったな。でも全裸よりも下着姿のほうが、いやらしかった」
それだけ告げると、大橋はよいしょ、と立ち上がった。
「大橋くん?」
「あー、ちょっとトイレ」
デニムのポッケに手をつっこみ、大橋は涼し気な顔で浴室の隣にあった扉がトイレで間違いないだろうと、軽い足取りで向かう。扉を開け、そのまま便座に座り、はぁーとため息をついた。
「おいおい、おまえは、男で勃ってんじゃねぇよ……」
デニムの中で隆起した自分の下半身に喝を入れる。動画の途中で、嫌な予感はした。さっき、男のオナニーなんて興味ないと言ったのは間違いなく自分だ。もとから、自分は男の体に性的な興味はない。ちゃんとおっぱいが好きだし、セックスだって女としたい。今までの恋愛対象も女という、いたって健全な成人男子だ。それなのに、今の望月のオナニーには明らかに興奮してしまった。だからといって、何をしたいというわけではないが、あれならそのままオカズにして、射精までイケてしまうような気もする。
最初見たときは、そんな気持ちにはならなかったのに、自分に見つめられ恥ずかしそうに自慰行為をする望月にひどく興奮した。今回は明らかに、望月がいやらしく映ったのだ。
「相手は総務の望月……総務の望月……望月だ…」
脳内にこびりついた妖艶でいやらしい望月の姿を、自分がよく知る、スーツ姿で無表情の望月で上書きし、なんとか沈静化させた。
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