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第10話:
「そんなに興奮したんだ……」
わざと呆れたような口調で呟くと、眼鏡の奥の望月の瞳が、ふるふると震えて潤んでいる。体が気持ち以上に反応してしまったことを改めて指摘され、晒されることでますます羞恥が煽れているのだろうか。こうしたプレイは男女のAVでよく見かけるが、望月には効果が絶大だったようだ。
そして大橋もまた、自分の言葉によって望月の快楽が増していくことを実感して、ごくりと喉を鳴らす。このあとの展開によっては自分もまた、自分の中の欲望と戦うことになるのだ。
「見せてくれたご褒美。直に触っていいよ」
ようやく直接触ることを許された望月は再び下着の中に手を入れ、すっかり硬さを帯びたそれを握り込んでゆっくりと上下に扱く。そのたびに、はぁ、と吐息を漏らし、部屋には、ぐちゅっぐちゅっと粘液が交わる音が響く。
「そこも、すっかりかたくして……上下に扱くのが好き?」
望月は大橋の言葉に、ゆっくりと頷く。その姿をじっと見つめられながらも、扱く手は止まらない。普段は性に関することを何ひとつ想像させない望月が、欲望に対して貪欲であるところが好きだ。そしてそれを知っているのは自分だけだという優越感がたまらない。
徐々に気持ちが高揚しているように見える望月だったが、先程から大橋が気になっているのは、ずっと望月の太ももの上で、何かを迷っているように軽く握ったり開いたりしている左手の存在だ。
「左手、どうかした?」
もちろんそれを大橋が見逃すはずがない。
「なんでも……ない」
何事もない返事をしていても、望月の瞳は震えている。
「それ、どうしたいの?」
もちろん望月の気持ちは手に取るようにわかっていた。今までの動画でも望月が自慰行為をするときは、右手で何をして、左手で何をしていたかは、当然知っている。
「なんでも……ない」
「ふーん、それなら左手はそのまま使わないけどいい?」
望月は、うっ、と小さく呻いた。大橋の予想では、望月は左手を使わないとイケない体になっている。それはフィニッシュに近づくにつれて、絶対に必要になってくるのだ。
「左手……使いたいです」
もうごまかせないと察したのか、望月は早々に白旗を上げた。けれど簡単に使わせてやるほど、優しくはしない。
「ふーん。左手どこに使うの?」
「……後ろの……穴、触りたい……です」
あえて望月の顔のアップで、恥ずかしい言葉を言わせる。我ながらベストタイミングで撮影できたと思う。こちらの思惑を知らない望月は恥ずかしさのせいか、俯いていた。
「じゃあ、みっつの質問に答えられたら、許してあげる」
「え……」
驚いた望月が顔を上げる。もともと気になっていたことを、動画の中で撮影に乗じて聞いてみたいと思っていた。そして、そのチャンスがふいに訪れたというわけだ。
「じゃ、ひとつめの質問。後ろの穴は自分で開発したの?」
望月の返事を待たず、質問を投げると、望月は小さく首を横に振る。視線は画面の外に向いている。
「ふたつめ。誰かに、教わったの?」
その答えを待つ自分の胸はざわつく。気になるけれど、もし自分が知っている名前が出てきたら、平静でいられないような気がして、聞くのが怖かった。
「半年前くらいに、もっと気持ちのいいオナニーの仕方を教えてあげると言われて……その、教えてもらいました……」
それは誰なんだ、と言葉が出てきそうになるのを抑える。知らない名前であってほしい、それを願う。
「最後の質問……後ろの穴、自分の指以外のものが入ったことはある?」
はっきり言って最後の質問は自分にとって、賭けだった。本当なら聞きたくない。もし、それを教えた相手と一線超えたと知ってしまったら、自分が不愉快になることが想像ついていた。けれど、知りたかった。もしそうだったとしても、過去のことだと割り切ってしまいたかった。
「ないです……その先は……怖くて、それ以来は誰とも……だから自分の指しか挿れたことないです……」
無意識に大橋は、ほぅ、と安堵の息をついてしまった。もしかしたらカメラの音が拾ってしまったかもしれないくらいの大きさで驚く。
あの場所は、望月の指しか入ったことがない。誰もまだその先を犯してはいないのだ。
「よく頑張ったね。触っていいよ。その前に、左手の指をたっぷりのツバで濡らして」
ようやく許しを得られたことに安心したのか、望月はおずおずと左手の人差し指と中指を口に運んだ。舌先で唾液をぬりつけているのが見える。本人は無意識だろうが上目遣いにカメラの様子を伺っている姿がまるで誘っているようだ。
そして、それをカメラ越しに見ていた大橋は、自分がごくりと喉を鳴らして唾液を飲み込んだことに気づく。
(この先、俺は耐えられるのか……?)
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