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第20話:

「望月」  大橋はめったに訪れない総務のフロアで、望月の名前を呼んだ。六名ほどの社員が、一斉に大橋を見る。 「大橋くん?」 「ちょっと顔貸せ」  それだけ告げて、望月が来るのを部屋の外で待った。少しして、怯えたような表情の望月が大橋に近寄ってきた。 「何か用?」 「おまえ、俺に言わなきゃいけないことない?」  大橋の言葉を察したのか、あっ、と呟き、望月は顔を伏せた。 「事情はあるんだろうけど、アカ消すなら事前に言ってくれてもいいんじゃねーの」 「ごめん……」  やはりソウのアカウントを消したのは間違いなく本人の仕業のようだ。コラボの撮影といい、アカウントのことといい、望月の行動が理解できない。今までは誰よりも望月のことを理解しているのは自分だと思っていたのに、今はわからないことだらけだ。 「まあいいや。言いたいことはそれだけだから。じゃお疲れ」  何も話してくれないのは拒絶と同じだ。大橋はこれ以上関与するのはやめようと思った。 「待って、大橋くん」  望月に背を向けた瞬間、袖を掴まれた。 「……何?」  振り返ると、望月の唇は震えていた。 「今日、仕事終わったらうちに来てくれない?」 「おまえんち? なんで」 「ちゃんと説明させてほしい。ここじゃ、話しにくいから」  確かに、さっきから望月は誰かを気にしているようだった。 「わかった」  望月の手を振り払うようにして、大橋は歩き出した。きっと今でも望月は自分の背中を見つめている。何か言いたげな顔なのだろう。それだけは、はっきりわかる。きっと、今夜で、自分と望月の関係は終わる。そんな気がした。 ◇◇◇  望月の家に来て三十分くらいが経過した。二人は、並んでベッドに腰掛けたまま、ずっと黙っていた。目の前のサイドテーブルにはマグカップが二つ置いてあったが、コーヒーはすっかり冷めていた。説明したいと言ったからここに来たのに、望月から話を切り出してくれる気配は一向になかった。 「で、黒丸との撮影はやったの?」  それくらいは聞いてもいいだろう。 「やったよ、一応」  そうかそりゃそうだよな、と思い直す。まるで古傷が痛むように、じくじくと心が軋む。 「アカウント消したのは、身バレしたからなんだ」  望月からは、コラボ撮影と関係ない問題の方を切り出され、しかもその言葉に耳を疑った。 「は? 身バレって……誰に?」 「太田課長」 「マジ、で?」  しかし、どうしてバレたのだろう。ソウは眼鏡の効果もあって一見、望月には見えない。よほど身内の内通者でもいなければ、望月だと気づかれる可能性は低いはずだ。 「安心して、大橋くんのことは言ってないから」 「そんなこと考えてもいねぇよ!」  その声には怒りが含まれていて思ってる以上の大きな声になった。真っ先に自分の保身を考えるような、そんな最低な人間に思われていたなら、それは断固否定したい。

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