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第21話:
「ごめん。でも大橋くんを巻き込んだのは僕だから」
「一番におまえだろうが! で、太田はなんて言ってきたんだ」
「動画でされてるようなことしてあげるから、アカウントは消せって」
「は? 脅迫じゃねぇか」
アダルト系コンテンツは脅迫や脅しの対象になりやすい。金銭を要求する事件も起きているが、泣き寝入りする人間が多いのも実情だ。
大橋は、小島が言っていた、太田がもともとそっちの人間だということや、望月と親密そうに話していたということを唐突に思い出した。
「確認するけど、おまえは太田のことそういう対象では見てないってことでいいか?」
望月は、大橋の目を見て、しっかりと頷いた。
「それで、おまえが慌ててアカウント消した理由はわかった。太田には間違いなくバレたのか? まだ太田は疑っているだけじゃないのか?」
「黒丸って実況者を知ってるかと聞かれた」
「は?」
「週末、黒丸と話していたのは、おまえか?と聞かれて」
「ちょっと待て」
まさか漏らしたのは、黒丸だと言うのか? 太田は黒丸とどこで繋がってる?
「僕、動揺しちゃって、そしたら『まさかソウがおまえだったとはな』って言われて、もうこれは無理だってなっちゃって」
望月の話から察するに、太田は黒丸とソウが撮影をしていたことを知っている。その声から、望月だと気づいた。ということはソウの姿を見ていたわけではない。それなら、望月に対して『おまえか?』なんて確認はしない。なんだ。どういうことなんだ。
大橋は、あらゆる方向から推測を始める。
「ごめん……僕がコラボなんか引き受けたせいで……」
「そんなことはどうだっていい。今はこれからの対策を考えよう」
狼狽える望月の肩を大橋は自然と抱いた。しかし、はっ、と気づき、その手を引く。
「大橋、くん?」
「悪い。こういうのは、もうやめなきゃな」
今まで自然にしていたことだけれど、ただの会社の同僚である今は、望月に馴れ馴れしくしてはいけない。そう自分を戒めた。
「やっぱり、僕が、黒丸くんとのコラボ引き受けたこと、まだ怒ってるんだ」
「その話はもう終わっただろ」
「でもあのときは、僕が、そう返事するしかなかったでしょ!」
望月が声を荒げる。
「なんでだよ」
「だって、僕だけの大橋くんじゃないんだもん!」
「は、はぁ?」
まったく想像していなかった答えに、思わず、まぬけな声を漏らしてしまう。
「会社でも大橋くんは人気だし、まさかネットにも大橋くんのファンがいるなんて思わないじゃん……僕だけが大橋くんを独り占めしてちゃいけないんだなって……」
「待て待て、おまえ、コラボ引き受けたのは、本気で俺のためなの?」
望月の目尻がみるみる赤くなる。なんだ、望月は、一体、何の話をしているんだ。
「僕が大橋くんを独占するようなことしたから、バチが当たったんだ」
「なぁ、さっきから、何言って……」
「僕だってこんなこと言うつもりなかったのに、でも大橋くんは僕のこと、ただの同僚って言うし、動画もやめたいみたいだったし……」
「あのときは仕方ないだろ、動画も、俺、やめたいなんてひとことも」
取り乱している望月に答えている自分が必死に弁解をしていることに気づく。そもそも、望月は何が不満なのだろうか。独り占めという言葉を使う、二人の関係をただの同僚と言ったのが気に入らない、動画のこともやめちゃうのか、と悲しそうな顔で聞いてきた。
――あれ?
望月の言動を思い出してみると、それはもう自分に対して抱いている気持ちが、そういうことにしか思えなかった。もしそうなら期待してしまう、いや期待ってなんだ。
「でも僕、どうしたらいいか、わかんないし」
「わかった、望月。少し整理しよう」
今にも泣き出しそうな望月の両肩を掴み、その目を見つめた。涙で潤んだ瞳は、まっすぐ大橋を見つめてくる。
「これから、俺、おまえにすっごくダサイこと聞くけど、正直に言ってほしい」
望月は小さく、こくこくと頷く。大橋は、すー、と息を吸って、ゆっくりと吐き、まずは、自分を落ち着かせたあと、穏やかに尋ねた。
「もしかして、おまえさ……俺のこと好き?」
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