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第4話
余裕ありげなその表情に背筋を冷たい物が走るが、エレベーターが下降を始めると、逃げられたのだという安堵から、僅かに気持ちは落ち着いた。
「大丈夫……逃げ切れる」
以前とは違い、今は頼れる人もいる。
「降りたら、地下鉄……それから、電話」
突然の事の連続で、頭が相当混乱していた。
何故彼にバレてしまったのかすら今の圭太には分からない。
――なんで、どうしてっ。
はやる気持ちを抑えるように掌をギュッと握りしめ、階数表示をじっと見上げる圭太にとって、一分にも満たない時間が何時間にも思われた。
――もうすぐ……だ。
「……え?」
だけど、ちょうど三階と二階の間でエレベータが急停止して、圭太が唖然としている間に今度は上昇し始める。
「なっ……なんでっ!?」
慌てて携帯電話を取り出し連絡を外と取ろうとするが、ここで初めて自分のデスクに脱いで置いて来たジャケットの中に入れっ放しだと気が付いた。
「止まれっ、止まってくれ!」
操作盤を叩いてみても、上昇は止まらない。
会議室のある十一階を通り過ぎても、どんどん上へと階数表示が切り替わる。
「たす……けて」
絶望的な出来事に……圭太はガクリと膝を床に付き、誰にともなく懇願したが、弱々しい喘ぎはそのまま空気の中に溶け込んだ。
最上階でようやく止まったエレベーターの扉が開く。
「あッ……やぁっ……」
同時に視界に映った彼が、座り込んでいる圭太の身体を引き摺り降ろして蹴飛ばした。
「ゔぅっ!」
「探したよ。圭太」
「やぁっ、離っ、俺は……圭太じゃ無いっ!」
這いずるように逃げながら、圭太はそう彼に告げるが、圧し掛かって来た彼は圭太のシャツを半ば引き裂くように、その身体から取り払う。
「ほら、圭太だ」
「ひっ!」
薄くはなったが未だに消えない背中の傷を踏みつけて、そう言い放った彼はそのまま圭太の鳩尾 をけり上げた。
「ぐぅっ……うぅ」
強い衝撃に胃液が口から零れ出す。
苦しみに喘ぐ圭太の口へとなにか柔らかな物が触れ……ボロボロになってしまった身体はそのまま床へと崩れ落ちた。
関わらなければ良かったと、思ったところでもう遅い。
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