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第6話

「そうだよね。圭太はずっと、俺のことを見てたから、どうされても嬉しいよね」  愛おしげに細められる涼しげな和斗の瞳に、背筋を冷たい物が走る。  今まで幾度も勘違いだと圭太は泣いて訴えたが、目の前にいる冷酷な男は全く聞いてくれなかった。 ――もし、会わずにいられたら。  こんなことにはならなかったし普通に生活していた筈だ。  初めて会った高校時代に戻れるならば、もう一度やり直したい。  こんな、犬のように鎖で繋がれ、自由も言葉も取り上げられ……四足で這わされた揚句、排泄や食事までもが管理される生活なんて、人として生きているとは(すで)に言えやしないだろう。 「考え事? 腰が止まってる」 「やっ……いだぃっ!」  両方の乳首を同時に引っ張られ、薄い皮膚が限界まで伸び痛みに圭太はのたうった。 「あぁっ……あんぅッ」  なんとか脚に力を込めて腰をヘコヘコと前後に揺らすと、ジャラジャラと鎖が鳴って更に惨めな気持ちになる。 ――犬……以下だ。  快楽に流されるのが一番の逃避であり、いっそ感情なんて物は捨ててしまえたら楽になれると、何度も思ってここまできたが、どうしても諦めらない自分が心の中にいて……だから圭太は愉悦と恐怖に(さいな)まれ続けられながら、ギリギリの場所で常に自我を守ろうと足掻(あが)き続けていた。  ***  圭太の生まれ育った環境は普通からは懸け離れていた。  母子家庭で育ったけれど、アル中で精神までも壊れてしまっていた母親は、飲んでは暴れ、自殺未遂を何度もしては、入退院をくり返していた。  圭太自身も夜中に突然叩き起こされて背中を擦れと命じられ、朝までずっとそうしていては学校にすらまともになんて通えない。  それでも小学生だった頃は、そんな母でもたった一人の家族だから、何とか自分を見て欲しいと願いもしたし、母が一番好きだった。  だけど、年齢を重ねるうち、何度も未遂を阻止するなかで、心が(きし)んで擦り減らされ、ある日開いたドアの向こうにぶら下がる母の脚が見えた時、驚愕と、焦りと共に僅かな安堵(あんど)を覚えてしまった。  そんな自分を情の薄い人間だと認識したのが中学三年生の夏。  外では蝉が鳴いていた。

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