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第7話

 可哀想にと囁く声。  それまで誰にも声も掛けられやしなかったのに、そうなると、突然周りや行政などが動き出す。  死んだ母が最期の時に腹に風呂敷で巻きつけていた百万円の札束は、誰の為の物だったのかは分からないけど、それに合わせて保険金が多少下りたから圭太は高校へと行けた。  もちろん、それだけでは足りないからアルバイトをして定時制に通う事になったけれど、勉強をして奨学金で国立大学へと入り、そこから普通の会社へ入社し、普通の暮らしをする事が、それから圭太の目標になった。 『普通』に憧れ、『普通』に生きていくことが、本当はとても難しくて、そしてとても幸せなのだと既にそれまでの生活で……身に染みて知っていたから。  そして、そんな忙しい毎日の中で圭太は和斗と知り合った。  圭太の昼間の働き口は、老舗(しにせ)のイタリアンだった。中学の担任からの紹介で、夜の時間は入れないけれど、繁忙する土日等には入れるし、平日も、昼や仕込みの手伝い等で一定の稼ぎがあった。  そんな圭太の勤める店の、常連客だったのが和斗だ。  見るたび違う女性を連れているかなり目立った容貌の彼に、視線を向けてしまっていたのは自分だけではないだろう。 『君、いつも見てるけど、俺の顔、何か付いてる?』  ある日、仕事が終わった圭太が一人で裏口から表へ出ると、そこに立っていた和斗に声を掛けられて……そこまで見ていたつもりは無いが、不快な気持ちにさせたのならば申し訳ないと思った圭太は彼への謝罪を口にした。  それを機会に話すようになり、住む世界の違う二人は、いつの間にか親友とさえ思える関係になっていた。 ――でも、そう思ってたのは俺だけだった。 「んっ……くぅっ」 「圭太、起きた?」 「……っ!」  覚醒した圭太を見つめて優しく微笑む和斗の顔は、大学時代と変わらない。

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