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第8話

 既視感(きしかん)に目を細めるが、体中に感じる痛みが今の関係を否応なしに圭太に伝えて胸が痛んだ。 「声、出してもいいよ」  その言葉から、首輪の電源は入れられてないと分かったが、何を言えばいいのか分からず圭太は黙って顔を背けると、拘束の解かれた身体をノロノロ動かし始める。  就職が決まった圭太が大学生活最後の夜を、和斗と一緒に祝ったあと、どういう訳か親友だと思っていた彼に拉致され、この屋敷へと監禁された。  もちろん何度も逃げようとしたし、言葉で拒絶も示したけれど、何を言っても彼は聞き入れず『分かってる』と繰り返しては圭太の自由を奪っていった。 「戻らなくていいよ。今日はここで一緒に寝よう」  疲れた身体に鞭を打ちながらベッドを下りた圭太にそう告げ、和斗が首輪に繋がる鎖を掴んでそれを手前に引く。 「ぐっ……うぅっ」  そして、ベッドの上に逆戻りして苦悶に顔を歪ませた圭太の身体をグイッと引き寄せながら首筋にキスを落としてきた。 ――どうして?  柔らかい布団で一緒に眠るより、部屋の隅に(しつら)えられた自分専用の檻の方が余程いいと圭太は思う。 「圭太も素直になってきたから、ご褒美だよ」  甘く囁く低めの声に、もう狂気しか感じられなくて、圭太の身体はカタカタと震え体中に鳥肌が立った。  ***  圭太の存在に気がついたのは、よく利用するイタリアンで当時遊んでいた女から、 「ちょっと見て」 と、言われた時。  それまでは……視界の隅にも入り込んでこなかった。 「あの子、さっきから私をチラチラ見てる。感じ悪いから早く出ようよ」  確か、そんなことを言っていた。 「彼女とか絶対いなそう。やだ、まだ見てる、気持ち悪い」  そんな、自意識過剰な女の言葉に興味はまるで無かったが、それでも視線を彼に向けたのは女がしつこかったから。 「ああ、あれ。別に見て無いじゃん」 「それは和斗が見たからだよ。さっきからずっと見てたもん」 「へえ……じゃあ出る?」  怖いと言いながら全く恐れたところの見えない女の様子に内心辟易しながらも、和斗はそう彼女に告げると伝票を持って立ち上がった。

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