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第9話

  ――この女との次は無いな。  正直セックスをする相手に苦労した事は一度も無いし、黙っていても向こうから勝手に和斗の上へとに乗ってきた。  和斗にとってはこんな女の戯言(ざれごと)で、気に入っているイタリアンを食べられない方が嫌だから、この女を切り捨てるのが当然の選択だった。 「ありがとうございました」 「ご馳走様」  レジ係の女性に笑みを向けてそう告げると、分かりやすく女性の頬が薄紅色にパッと色づく。 「和斗っ、行こう」  彼女気取りの女に腕を引かれて後ろを振り向いた時、たまたま移動させた視線上で彼の瞳と目が合った。  ミラレテル  すぐにそう直感した。  どうしてそれまで気づかなかったのだろうと思わずにいられないほど、印象的な黒い瞳が、真っ直ぐこちらを見つめていて……和斗はまるで囚われたように逸らす事ができなくなった。 「どうしたの? 和斗」  袖口を引っ張る女の声すらあまり入ってこない。 「やだ、また私を見てる! 怖い、早く出ようよ」 ――違う、彼が見てるのは……。 「圭太はずっと、俺を見てたよね」  腕の中で眠る圭太の身体を強い力で抱き締める。と、ビクリと身体を硬直させて小さく首を横に振った。 「嘘は駄目だよ。俺が女と寝てる時、カーテンの隙間から圭太が見てたの知ってるよ。男と付き合った時なんか、ずっと後ろを()けてたよね」  思い出すだけでゾクゾクする。  どこに居ても、何をしていても視線を感じるようになり、レストランへと脚を運ぶ回数も徐々に増えいった。  線が細くて色の白い、特筆するところの無いどこにでもいる普通の青年。否、当時の圭太はまだ少年から抜け切れていなかった。  ただ、その大きな黒い瞳がいつも自分を見つめているのだけは、間違えの無い真実だった。 「いつも見てたって、圭太が自分で認めたんだよ」 「それは……そういう意味じゃっ……やぁっ」  認めようとしない圭太の萎えたペニスを握り込むと、痛みに歪んだ彼の唇に触れるだけのキスを落とす。 「なんでそんなに臆病なんだろうね」  常に感じる圭太の視線が気になって……話しかけたのは和斗の方が先だった。 『ごめんなさい』  それを認めて潔く謝罪してきた圭太の姿を見ながら、和斗は彼が自分に思いを寄せているのだとすぐに気づいた。  言葉で聞いた訳ではないが、瞳がそうだと語っていた。  当時の和斗は圭太の事を特別だとは思って無かった。だから、最初は面白半分で、彼のテリトリーに入り込んだらどうするのかを試す為に近づいた。

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