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「…参ったな」 漆黒が困り果てていると、どこからか足音が近づいてきた。 玉砂利をザクザクと踏みしめながらやってきたのは青藍だった。 青藍は紅鳶に続く人気男娼だ。 爽やかな見た目通り人懐っこく、誰とでも直ぐに打ち解ける高いコミュニケーション能力を持っている。 「おっと、逢引き中でした?」 二人の姿を見た青藍が悪戯っぽくほのめかしてきた。 「そういう冗談はやめろ。いつ、どこで般若が聞いてるかわかりゃしねぇんだ」 「あ〜、確かにあの人神出鬼没ですもんね」 青藍がクスクスと笑う。 「それより助けてくれ。紅鳶が落ちちまって身動きが取れなくなった」 漆黒はしめたとばかりに青藍に助けを求めた。 青藍と二人でなら紅鳶の身体を傷つけずにどかすことができる。 「へ〜紅鳶さんが人前で寝るなんて珍しい。この人本当に隙見せない人なんですよ?漆黒さんの肩がよっぽど気持ちいいんですね」 しかし青藍は助けるどころか興味深々で紅鳶の寝顔を覗き込んでいる。 そして、突然何かを閃いたようにポンと手を叩いた。 「俺も混ざっちゃお〜」 そう言うと、青藍はゴロリと寝転がった。 「おい何考えてんだ?助けろって言ってるだろ」 しかし青藍は全く耳を貸さない。 それどころか頭を身動きの取れない漆黒の膝の上に乗せてくると「えへへ」と笑いながら太ももに顔を擦り付けてくる。 「やめろ!!気色悪い!!」 漆黒は鳥肌を立てると青藍の耳を思い切りつねった。 「痛っ!!ちょっと痛いですって!!だって紅鳶さんだけずるいじゃないですか!俺だって漆黒さんに甘えたい〜」 青藍は涙目になりながら訴えてきた。 「紅鳶にだって許してるわけじゃねぇよ!早く離れろ!」 漆黒は自分の膝に図々しく陣取る青藍の頭を無理矢理引き剥がそうとした。 しかし、肩口にいる紅鳶が気になって本気で抵抗する事ができない。 「あ〜〜!ひどい漆黒さん!俺ずっと漆黒さんのこと好きだったのにぃ。あ、じゃあ膝枕のお礼にしゃぶりましょうか?俺、結構上手いんですよ?漆黒さんすっごく濃いの出しそう。それに漆黒さんの形とか色とか匂いとかすっごく興味あるなぁ」 青藍の卑猥なジェスチャーと言葉に漆黒の顔が青ざめていく。 冗談じゃない。 同じゆうずい邸の男娼にされるなんて御免だ。 「やったらまじでぶっ殺すからな」 ドスの効いた声で脅すが、青藍は全く憶する様子もなくニコニコと笑うと妖しげな手つきで漆黒の股間を摩ってきた。 「もう、そんなムキにならないでくださいよぉ。冗談だったのに本当にシたくなっちゃうでしょ」 それに呼応するように紅鳶が漆黒の肩口で寝息を立てる。 漆黒はため息を吐くとぼりぼりと頭を掻いた。 確かここにはつかの間の休息を求めてやってきたはずだ。 それなのに今日はなんだがおかしな方向に向いている。 肩では一番手が気持ちよさそうに眠っているし、膝では人気男娼がニマニマと満足そうに笑っている。 けれど一番おかしいのは、この状況を平和だなと思ってしまっている漆黒自身だ。 それもこれもこの春という陽気のせいだろう。 そして、漆黒に対して警戒心を解きまくった男娼二人のせいだ。 「…お前らまじでたち悪ぃぞ」 「はい、タチですから」 語尾に思いっきりハートマークをつけて青藍が笑った。 その三人の様子を離れた場所から見ていたのは楼主だった。 「全く微笑ましいこった」 楼主はそう呟くと、何も見なかったようにそっと去っていった。 それは日々争いの絶えないゆうずい邸の穏やかなひと時の光景だった。 終わり。

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