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酔いどれ話2

こんなにへべれけになると知っていたら、三人の中で誰が一番酒が強いかの勝負なんてふっかけなかった。 漆黒は自分の両側でぐでぐでになっている二人を見ながらため息をついた。 ニヤケ顔の青藍は真っ赤で舌たらずだし、紅鳶は顔色こそ変わっていないものの目が完全に据わっている。 いつもはゆうずい邸男娼のお手本のような二人のくせに、今は見る影もない。 「ちょっと…紅鳶せんぱい、漆黒さんと距離近すぎないっすか!?俺にはいつもウザいから離れろとか言うくせに…ズルイっすよ!」 「だってお前………暑苦しいし」 「あつ…暑苦しいって…ひどい!!普通に熱いでよくないっすか?もう〜漆黒さん何とか言ってくださいよぉ〜こういうのをイジメって言うんれすよね〜」 「違う……これは…………愛の鞭だ」 「どこに愛があるんれすか〜〜俺には全く伝わりませんよ〜〜」 漆黒を間に挟んだ状態で両側から言い争いが始まる。 「あ〜もう、うるせぇうぜぇ!!」 ぶん殴って黙らせたい気持ちを堪えながら漆黒は叫んだ。 それにしても弱すぎやしないだろうか。 営業中でも二杯くらいの飲酒は普通量だ。 使っていたコップだってたいして大きくはないし、飲みすぎているとは到底思えない。 まさか飛び抜けてアルコール度数の高い酒でも飲んだのかと疑いもしたが、二人とも漆黒と全く同じものを飲んでいる。 一応確認してみようと、監視役に付いていた男衆を呼んだ。 「おい、一体何を飲ませた?二杯しか飲んでねぇのにこんなになるか?普通」 男衆は漆黒の質問にハッとすると、次第にそわそわとし始める。 明らかに挙動不審になったその反応に嫌な予感がした。 男衆は覚悟を決めたのか、ゴクリと唾を飲み込むと、恐る恐る耳打ちしてくる。 「あの…大変申し上げにくいんですが… 実は楼主の申し付けで、普段接客中の二人には内緒で極々薄めた酒(水と変わらないくらいの)を出しているんです。…二人ともすこぶる弱いんで…」 「馬鹿野郎!!!!言うのが遅ぇ!!!!」 「も、申し訳ございません…!!」 漆黒の凄まじい剣幕に男衆がヒィっと慄く。 両腕を青いのと紅いのに塞がれてなかったら本気でぶん殴っていただろう。 漆黒は男衆にすぐに楼主をここに連れてくるよう命じた。 「五分で連れて来れなかったらてめぇの陰茎(アソコ)を引き千切って鍋で煮てやるからな」 そう脅すと、男衆が足を縺れさせながら慌てて駆けていく。 その後姿を睨みつけると、漆黒は盛大に舌打ちした。 「全く…使えねぇ男衆もいるんだな」 ここで働く男衆は訓練された有能な奴等ばかりだと思っていたがとんだ思い違いだったらしい。 それにしても楼主も楼主だ。 飲酒の許可を得に行った時になぜ二人が下戸だという事を教えてくれなかったのだろうか。 暫く考えて漆黒は顔を歪ませた。 「楼主(あの)野郎…知ってて俺をハメやがったな」 一杯食わされた事に気づいたのだ。 しかし今更気づいてももうあとの祭りだ。 こうなってしまったものは仕方がない。 知らなかったとはいえ、勝負をふっかけたのは漆黒自身だ。 言い出しっぺとしても年長者としても、この二人を最後まで面倒みなくてはならない。 漆黒はふわふわ揺れる二人の後頭部をバシンと引っ叩いた。 「ほら、しゃんとしろ。勝負はもう終わりだ。部屋に戻って寝ろ」 しかし、二人は漆黒から離れるどころかますます身体を密着させてくる。 「おい、もういい加減…離れろ!」 すると、真っ赤な顔をした青藍に胸ぐらを掴まれると力いっぱい引き寄せられた。 油断していた漆黒は、呆気なく床机台の上に転がされてしまう。 すかさずその身体の上に跨がり、青藍がマウントを奪ってきた。 押し倒すまでの流れるような一連の動作はさすがゆうずい邸の男娼といったところだが、同じ立場で働く男娼にされてもちっとも嬉しくない。 「俺は押し倒されるならもうちょっと華奢な方がタイプだ」 「ひどい!おれこんなに漆黒さんのこと好きなのに!まだおれの事何にもわかってないのにフるなんてひどいれすよぉ」 「お前らが相当下戸だってことはよ〜くわかった」 「下戸ってだれにいってるんれすか!あ、紅鳶せんぱいか…」 「聞き捨てならないな……誰が下戸だ」 青藍の揶揄に紅鳶が気配を殺気立たせる。 すると、負けじと青藍も紅鳶を睨みつけた。 闘争本能をギラつかせる二人の双眸にギョッとした漆黒は、慌てて二人を引き剥がそうとする。 「わかったから二人とも一回離れろ」 しかし青藍の体に組み敷かれている身体はびくともしない。 不味いな… 漆黒の背中を冷や汗が流れていく。 このままこんな状態で喧嘩が始まってしまったらいよいよ止められなくなる。 「お前らいつも他の奴らに喧嘩すんなって言ってるんだろ!?このままやりあったら示しがつかないだろうが」 「俺とやり合う気か?青藍」 「こっちの台詞ですよ、紅鳶さん」 「お、おい…!!」 と、次の瞬間。 漆黒の目の前で信じられない事が起こった。

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