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「ここが君の住んでいる場所か」 不意に視線をやった郁也さんの先にあるのは、本当なら人を招くには申し訳ない、築何百年の老朽化が進んだアパートだ。 大家さんは良い人なのだが、不動産の人でさえ賃金の安さしか求めていない人にしかおすすめしていないぐらいである。 全体的に錆びついていて、壁も元の色を失っている。 「あの、本当に俺の部屋でいいんでしょうか?郁也さんが良いなら俺は別に喫茶店でも……」 できるなら、喫茶店の方を選んで欲しい。 部屋は最低限のものしか置いていないから特に散らかってはいないが、それでもやはり私生活を見せるのは少し恥ずかしい。 「君の部屋がいい。だめか?」 直球で聞かれて、だめだなんて言えるわけがない。 まだ躊躇いはあったが心を決めて、首を振った。 「じゃあ、俺の部屋で。こっちです」 「ああ」 二階建てのアパートには今は俺しか住んでいなくて、俺の部屋は一階だ。 ここ五カ月の間に数少なかった他の住居人は立て続けに引っ越しをしていって、今考えればそれが立ち退きの話が出ていたからだと分かる。 会った時に挨拶をするぐらいの浅い付き合いだったが、今はもっと接すれば良かったと少し後悔だ。 「どうぞ。狭いですが……」 「失礼する」 軋んだ音を立て開く扉に、やはり申し訳なくなる。郁也さんが中に入ったのを確認し、狭い玄関で肘が郁也さんに当たらないよう気を付けて力強く引いて閉める。 立て付けの悪い扉はこうしないと上手く閉まってくれないのだ。

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