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それどころか、スーパーで急いで用意した安物だという事実に罪悪感さえ感じる。
やはり、何処かケーキ屋さんを探してケーキだけでも良い物を用意するべきだっただろうか。
「早速だが、これが契約書だ。弁護士を通した正式なものだ、安心して中身を確認してほしい」
「ありがとうございます」
差し出された茶封筒を受け取る。
公園で受けた仕事だけあって、予想よりも雇用のされ方がしっかりとしていて、少し驚いた。これが良い大人の社会人なのだろうか。
中身を取り出せば、数枚の紙と質の良さそうなボールペンが一本入っていた。
ざっと内容を確認するが、仕事で得た情報を外部に漏洩しないなど、今まで見てきたものと変わらないもので安心する。
「俺と君のどちらかが死亡するといった特別な事態を除き、一年間は契約の破棄を認められない」
ごくりと唾を呑む。一年は短いようで、長い。
多忙だったらあっという間に過ぎる時間も、それは取り掛かる作業ほとんどが慣れがあったりするからだ。
家政婦は初めての試みで、正直、家事に自信はない。
「その契約書を読んで同意してくれたのなら、この紙にサインと判子を押して欲しい」
「……わかりました」
今までにないくらいに真剣に文字を追って内容を読む。
だが、郁也さんが言ったこと以外にやはり今まで見たものと変わった内容はない。
一つ違うとすれば、給料は銀行振り込みじゃなくて、一月分をまとめて末日に直接の受け渡しぐらいだ。
ズボンのポケットに入れていた判子を取り出し、封筒に入っていたボールペンで指定された場所にサインを書いた。
「お願いします」
最後に判子を押して、深々と頭を下げて契約書を差し出す。
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