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「生活をするのに必要な家具は用意してある。不備があればすぐに用意しよう。持っていくのは最低限のもので構わない。俺も荷造りを手伝おう」
そう言って立ち上がった郁也さんを慌てて止める。
「いえいえ!大丈夫です。俺ほとんど荷物はないので、手伝って頂くほど多くないと思います。すぐに終わりますから!」
その言葉は本当で、たぶん荷物を纏めるのに一時間もいらないだろう。
急いで、ここに引っ越してくる時に使ったボストンバッグを押し入れの中から引っ張り出す。
「俺の手伝いは不要だろうか?」
眉を下げる郁也さんに、俺は困惑する。
本当に纏める荷物が少ないだけで、郁也さんが必要ないとかそういうわけじゃないのだ。
「本当にすぐに終わるので、郁也さんはそのケーキや紅茶を飲みながら待っていてくれませんか?」
「……君がそういうのなら待つことにしよう」
渋々といった感じだが、頷いてくれた郁也さんに安堵する。
さっさと荷物を纏めよう。堅く決めて、手際よく荷物をボストンバッグに詰めていく。
「君が淹れてくれた紅茶は美味しいな」
「ありがとうございます。郁也さんのお口に合ったようで良かったです」
「ああ、君が淹れてくれたからだろうな」
……お願いだから、さらりとそういうことを言わないでほしい。
正直照れるから恥ずかしいし、どう反応していいか分からない。
それから程なくして、最低限の衣服や大学で必要な教科書などを纏め終わった。
「お待たせしてすみません郁也さん。荷物纏め終わりました」
「ああ。大家に挨拶が済み次第、俺の家に行こう」
郁也さんの言葉に頷いてボストンバッグを持ち上げようとしたら、それを横から伸びてきた郁也さんの手に奪われる。
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