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分厚い参考書などのせいで重たい筈なのに、郁也さんは軽々と持ち上げたまま涼しい顔をし、当然といった感じで荷物を持ってくれてて俺は慌てる。
「あ、あの……!」
「君の荷物は俺が運ぶ。その代わり、君はこのアパートの大家の元まで案内してくれ」
自分で持つから大丈夫と言おうとした俺よりも先に、郁也さんが見透かしたように先を越す。
しかも大家さんの元まで案内する代わりだとまで言われて、言葉に詰まった。
そんなことなんの代わりにもならないと思うのに、郁也さんの気遣いだと分かっているから何も言えない。
「……ありがとうございます」
結局申し訳なく思いながらも諦めて、大家さんの元に向かうことにした。
一緒に部屋を出て扉の鍵を閉める。カチャリと鍵のかかる音が妙に耳に響いて、今日で最後かと思うと、心がしんみりとした。
この部屋が最初の一人暮らしの部屋だったというのもあって、寂しさを感じる。
ありがとうございます。
心の中で部屋にお礼を言って、郁也さんを振り返り「こっちです」と大家さんの部屋に向かう。
大家さんの部屋は一階の一番右端にある。他の部屋の扉よりも傷があり、塗装が剥げて無くなった扉が目印だ。
「大家さん、佐々木です。今お時間大丈夫でしょうか?」
扉をノックして話掛ける。
『大丈夫だよ、ちょっと待っておくれ』
防音性がないといっても過言ではないアパートのため、大家さんの声は張り上げられずとも聞こえてきた。
それから程なくして、ゆっくりと扉が開いて大家さんが出てくる。
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