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ぎゅっと手の中に握ったままの鍵に力を込める。
「郁也さん……」
俺を求めてくれて、良くしてくれる貴方に返していきたい。
精一杯頑張りますと誓うのと同時に、意識を手放した。
――――
誰かが呼んでいる気がする。朧気だけど、もう随分と呼ばれていない、密って。
さらりと髪を撫でられる心地の良い感触がする。温かくて、大きなしっかりとした手の感触がくすぐったい。
「ん……」
頬に触れられたと思うと、ゆっくりと離れていく。
寂しくて、思わずその手を取った。瞼を開ければ、ぼやけていた視界が開いていく。
「あ……」
「おはよう密。起こしてすまない」
「……郁也さん?」
どうして俺の目の前に郁也さんがいるのだろう。
頭がぼんやりとしている。不意に視線を動かせば、郁也さんの手を握っている自分の手がある。
「……!ご、ごめんなさい……」
状況はまだ呑み込めていないが、自分が郁也さんの手を無遠慮に掴んでいる事に一気に目が覚める。
慌ててその手を離し、飛び起きて正座で郁也さんに向き直る。
「いや、構わない。食事に行こうと思うのだが、大丈夫だろうか?」
「大丈夫です」
そうだった。食事に行くことになっていたんだ。すっかり寝てしまっていた……。
「すみません……起こしてくれてありがとうございます」
「いや、俺も君の寝顔を見れて楽しかった。ありがとう」
「……っ!」
そうだ。起こしてくれたということは、郁也さんに寝顔を見られたということだ。
今更ながらに気づいた事実に、恥ずかしさに顔が熱くなる。
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