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「ありがとう密」 郁也さんは目を瞑ると、俺が額に届くように身を屈ませてくれる。間近にある郁也さんの端正な顔に息を呑む。 かっこいい人だとは思っていたが、吐息を感じてしまうのではないのだろうかと思う程の距離で見ると更にその思いが深くなる。 長く綺麗に整った睫毛に、スッと通った高い鼻筋。薄い唇は自然な色のままなのに、間近にあるせいで意識をしているせいか妙に艶を感じてしまう。 「ふ、触れます……」 「ああ、いつでも大丈夫だ」 こくりと唾を飲んだ。手汗をかいている気がして一度服で拭うと、ふるふると震えそうになりながら手を伸ばす。 無意識に息を詰めてしまっているのか、息苦しい。強張る指を伸ばして、そっと繊細に郁也さんの両頬に触れる。すると、滑らかな肌の感触と温かな温度に驚いてしまってビクリと身体が震える。 すると、郁也さんが笑った声がして狼狽える。 「ど、どうかしましたか……?」 「すまない。目は見えないが、密が俺のために可愛い顔をしているのだと思うと嬉しさに笑ってしまった」 「うっ……!」 思わぬ不意打ちに、全身が沸騰しそうになる。思わず、決死の思いで触れたのに離しそうになる両手をぐっと堪えた。 限界を迎える寸前の羞恥心と闘いながら、ぎゅっと目を瞑る。考えないように必死に頭の中を真っ白にして、思い切って額へと唇をつけた。柔らかな肌の感触に戸惑うが、それ以上にやり遂げたという達成感が込み上げる。 「……おやすみなさい」 目を瞑ったまま額から唇を離し、郁也さんの顔が直視できず俯いて挨拶をしてしまう。すると、次の瞬間再び額に感じたあの感触に息を呑んだ。 「ああ、おやすみ密」 その場で逃げ出さなかった俺の踏ん張りを誰か褒めてほしいと思ったのは、決して郁也さんには教えられない。

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