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06
翌日の朝方四時。お見送りをしようとスケジュールにあった時間よりも一時間早い時間に合わせた携帯のアラームで目を覚ます。
お弁当を作ってからの短い睡眠で頭がぼんやりとして、気を抜けばそのまま意識が沈んでしまいそうになる。瞬きを繰り返して、どうにか這い上がるように手をつき、ベッドから体を起こして背伸びをする。
「んん……っ、眠い……」
だらりと腕を下せば、大きな欠伸が零れる。霞む視界に瞼を擦りながら廊下へと出れば、家の中は暗く静まり返っていてひんやりと寒い。
ひとまず眠気を飛ばす為に何か飲もうとリビングに向かった。うとうととしながら冷蔵庫に向かおうとした時、ふと視界を過ったリビングのテーブルの上に置いていたお弁当箱やおにぎりの朝食が消えている事に気づく。
お弁当の中身はマヨネーズとツナ、玉ねぎ、卵、キャベツといった内容で筒状にしたサンドイッチだった。軽くラップで巻いてあり、手軽さを重視した食べきりサイズのものだ。
「……もしかして」
眠気も飛び去り、信じられない気持ちで恐る恐るテーブルへと近づいた。すると、お弁当箱や朝食があった位置には『ありがとう』と流麗な字が書かれたメモ用紙があって、間に合わなかったのだと知る。
郁也さんの多忙さを改めて思い知らされ驚くが、それ以上に大事な初日の初っ端から失敗してしまった事実への落胆が大きかった。
……郁也さんの帰宅の時は出迎えられるように頑張ろう。スケジュールを見た限り、仕事を終えた後の俺の帰宅時間よりも遅い深夜だった。
再び目標を決めて、飲み物も取る気にならずとぼとぼと部屋に引き返す。大学に向かう前に家事をするにしても流石に時間が早すぎるため、諦めて寝なおす事にする。
――だがこの時の俺は、この後もことごとく自分の読みが甘く、詰めの浅さに嘆くことになることを知る由もなかった。
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