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「モップ持ってきて」 無言で奥宮さんに向けられていた視線が向けられて、ドキリとなる。その瞳は気のせいでなければ少し怒っている気がした。 俺は慌てて返事をして、用具室に向かうとモップを取り出して二人の所に戻った。 「悪い」 「あ、大丈夫ですよ!俺掃除しますから。気にしないでください」 短い言葉と一緒に差し出された手を見て答えれば、亜門さんは「助かる」と短く答えて奥宮さんの全身を念入りに拭っている。笑っている奥宮さんを抜けば、真剣な雰囲気に、邪魔をできる気がしなかった。 「ありがとう、流星。もう大丈夫だよ。流星は心配性だよね」 濡れた床をモップで拭いながら視線を向ければ、奥宮さんが亜門さんからタオルを奪っていた。 「佐々木くんもごめんね、ありがとう」 「大丈夫ですよ」 「ありがとう。ところで、二人はなにを話してたの?もしかして佐々木くんの彼女の話かな?」 「ち、違いますよ!」 驚いた拍子にモップを落としてしまいそうになる。流石は幼馴染と言うべきなのか、それともただの偶然なのか、振ってくる話題が同じだ。 二人にどう見えているのかは分からないが、残念ながら俺は恋愛関係に乏しく、付き合ったことは二度くらいしかない。それに関しても原因は分からないまま「自信がなくなった」「もう無理」と言われて終わっていた。 きっと甲斐性がないのだと思う。途端、昔を思い出してため息を吐きそうになった。 「佐々木くんってモテるのになー。周囲の嫉妬とか牽制に負けない勇者が告白して付き合ったのかと思った」 「俺モテないです。上手くいったことすらないです……」 言いながら古傷が痛んで切ない。徐々に声が小さくなっていく。

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