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「わかったよ。今日はご飯は諦めて帰るよ。部屋で大人しくしてるから」 奥宮さんは笑って立ち上がると手を高く伸ばして、身長差のある亜門さんの頭を撫でる。まるで仕方がない子供を見るような穏やかな様子だ。 「佐々木君、またね。あと、会いたい時は会いたいって言わないとだめだよ。言ってくれるとすごく嬉しいんだから」 奥宮さんは亜門さんのジャケットに袖を通すと、手を振ってお店を出ていく。去り際の不意打ちに、ドキリとなった。 亜門さんはじっと扉を見つめていたかと思うと、ガシガシと髪を掻きながら振り向いた。亜門さんと視線がかち合って、思わず逸らしてしまう。 「亜門さんは奥宮さんの事大切に思ってるんですね」 「……あいつ、身体が弱いからな」 小さな声で返された言葉には亜門さんの奥宮さんを大切にしている事が強く感じられて、仕事じゃなかったらきっと一緒に帰っていたと思う。 軽々しく触れて良い気持ちにもなれなくて、それ以上は特に会話をする事無く静かな店内で終業時間まで過ごした。 天気予報で大雨だと知っていたから今日は徒歩で、傘を差しながら帰宅路を歩いていた。雨は酷くなっていて、見上げても暗い空しかない。 酷い天気に身体が強張って、身体から熱が引いていく。強く傘を握る手が白く、冷たくなっていた。 いつくるかも分からない恐怖に心臓が掴まれたように苦しい。仕事中は人の目もあり考えることもないが、どうしても一人きりで帰っていると意識してしまって恐ろしかった。 「……っ!!」 黒い空が一瞬光ったかと思った次の瞬間――雷鳴が轟いて息が止まる。身体が凍りつき、頭の先から血の気が失われていく。

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