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それから家に帰宅して、ただいまと言うと返ってくるおかえりという声に胸が温かく満たされる。郁也さんに繋いでいた手を引かれてリビングへと一緒に向かった。 「着替えてくる。時間は遅いが、密さえ良ければ戻ってきたら一緒に食事をしよう」 返事をしようとしてキスをされる。不意打ちに呆然としていれば、郁也さんは優しく微笑んで部屋へと行ってしまう。 顔が真っ赤になっている気がした。今までの事を考えれば想像に容易いが、郁也さんは恋人をとことん甘やかすタイプだ。高鳴る心臓に、いつか壊れてしまうんじゃないかとさえ思う。 熱に頭がぼんやりとしながら、荷物をソファーの上に置いて、作り置きして冷蔵庫に入れていた食事をすぐに食べれるようにするためにキッチンに移動する。 冷蔵庫から取り出した食事をレンジで温め、IHの電源を入れ設定し、その上の鍋の味噌汁を温める。内容は厚揚げとえのきの味噌汁に、ネギを添えたぶりの照り焼きに。少量のマヨネーズと塩こしょうで味付けをしたハムと卵、たまねぎ等内容たっぷりのポテトサラダ。ミニトマトだ。 「本当に優しい人だよな……」 唇に柔らかな感触が蘇って、そっと指で触れる。触れた指先が熱い気がした。 暫しして、トレーナーとスエットという部屋着に着替えた郁也さんが戻ってくる。凛々しいスーツ姿ばかり見ていたこともあり、珍しいラフな姿に思わず見惚れてしまう。 「良い匂いだ。密は料理が上手いな。今まで必要程度に摂取すればいいとしか思ってこなかったが、密の食事を食べてからは密が作ってくれる食事が楽しみで仕方がない。いつもありがとう」 多忙な身で食事をしてくれるだけでも十分嬉しいのに、そんな風に思ってくれていたとは知らず嬉しさが込み上げる。 どうして郁也さんはこんなにも簡単に俺が喜ぶ言葉がわかるんだろうか。まるで魔法でも目にしているかのような気分だ。 ダイニングテーブルに食事や飲み物を準備し、郁也さんと一緒に食事の席に着く。 「俺の方こそ忙しいのに食べてくれてありがとうございます。いただきます」 「いただきます」 凛と伸ばされた姿勢といい、郁也さんの居住まいは何かの本の手本のように綺麗だ。綺麗な箸捌きでぶりの照り焼きの身に箸を通す郁也さんを、食事をしながら密かに視線で追ってドキドキとする。自分の作った料理を一緒に食事をするのは今日が初めてだ。 慎ましいぶりの照り焼きの身が郁也さんの口元に運ばれていくのを見て、つい箸が止まってしまう。 「美味しい」 「良かったです」 嬉しさに顔が緩む。やっぱり、直で反応が見られる事は一番嬉しい。 その後も、他の料理を食べる度に褒めてくれる郁也さんに満たされながら食事を終えた。片付けを完了して、その間に入浴を終えた郁也さんと入れ替わりに入浴した。 パジャマに着替えてリビングに戻ると、てっきりもう部屋に戻って休んでいると思った郁也さんがソファーに座っていて、驚く俺に気づくと立ち上がって近づいてくる。 「甘い香りがするな。同じ物を使っているのに密の匂いだけが甘く感じるのは、君だからだろうか」 「わ、わからないです……っ」 自分では匂いが分からなくて、入浴で火照った身体の熱が上がる。鼓動が早くなりながら、緊張に身体が強張ってしまう。

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