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monologue4

「なにか良い事でもおありになられましたか?」 「え?」 「失礼ながら、とても幸せそうなお顔でしたので」 マンションコンシェルジュの羽部《はべ》さんに、にこにこと微笑ましそうな笑顔を向けられ、まさか密かな胸の内が顔に出ていたとは思わずかああっと顔が熱くなる。 意識するあまり眠りにつけたのは遅かったが、昨夜一緒に眠った事もあり、今日は郁也さんと一緒に目を覚まし食事もできて、その上見送る事もできた。 すれ違ってばかりの今までからは考えられない満ち足りた一日をふとした時につい思い出してしまうのだ。今もそうだった。 クリーニングに出していた衣服を受け取りに羽部さんの元に来たのを忘れて自分の世界に浸ってしまったのだと思うと恥ずかしさで居たたまれない。 「僭越ながら、井坂様でしょうか。佐々木様はずっと井坂様の事をお気にかけられておられましたので、お悩みが解決されたのならなによりです」 益々顔が熱くなる。羽部さんとは家政婦の仕事の関係で接する機会もあり、それ以外にも会話をして仲良くしてもらっていた。俺が上手く役立てる事はできなかったが、事情を話して郁也さんがいつ帰宅しているかなども情報提供してくれた。 礼儀正しく仕事も丁寧で、とても優しい人だ。凜然としていて、綺麗な見た目の若さからして歳はそんなに変わらないと思う。本当は職務上いけない事だが内緒だと言いながら、よくお菓子をくれたりする。 「ありがとうございます。おかげ様で、羽部さんにも色々と教えてもらって本当に助かりました」 「勿体ないお言葉です。佐々木様には日頃より、お話相手になって頂いたりと貴重なお時間を頂いており感謝しております。どうぞ、今後ともよろしくお願い致します」 すぐに丁寧な感謝の言葉を返され、頭まで下げられて慌てる。羽部さんに感謝はしてもされることは何一つない。本当に丁寧な人だと感心してしまう。

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