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すると、楽し気にクスクスと笑う声がしてビクリと震える。 「二人の関係がとても良好だということは十分に分かったよ。さて、それじゃあ来たばかりだけど、一番の目的である確認や顔合わせはできたことだし邪魔者は帰るとするよ。見送りはいらないよ」 郁也さんの腕の中で息を呑む。現状を見れば明らかなんだろうけど、完全に知られていると思った。 もう、風宮さんと顔を合わせられる勇気はなく、真っ赤になった状態を見られないように隠してくれた郁也さんに感謝する。 背後で扉を開ける音がし、本当に帰るのだろう。すると、もうそろそろ羞恥心が限界だったのもあって思わず安堵してしまったが、ろくなおもてなしもできなかった事が申し訳なくなる。 「あ、あの風宮さん……今日はありがとうございました」 我ながら狡い状態だとは思ったが、恥ずかしさに震える声を絞る。 「こちらこそありがとう。用意してくれた紅茶やクッキーごめんね。私の分も郁也と楽しんで」 風宮さんがリビングから出ていく気配がする。遅れて廊下から、風宮さんが出て行ったことを知らせる玄関扉の音が聞こえた。強張っていた身体から力が抜ける。 「顔を上げてくれないか密」 「どうか……んっ」 腕の力が緩められ、言われた通り顔を上げて郁也さんを見上げれば、優しいキスが降ってくる。不意打ちにドクリと鼓動が波打つ。 甘い感触に胸が熱くなるのを感じながら瞼を閉じる。暫しして、ゆっくりと離れていく感触につられるように瞼を開いた。 「ただいま」 吐息を感じる程の距離で見つめ合いながら優しく微笑まれ、幸福感に胸が満たされる。幸せだと思った。

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