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「…羽野…」
びっくりして目を見開ける。
河木くんは珍しく目を泳がせていた。
「ど、どうした…の?」
何かを伝えようとしてくれていると感じ取り、僕は河木くんとそのまま向き合う。
「えっと……さ、」
(ほんとに珍しい…)
目を泳がせたまま、寒さとは明らかに違う、しどろもどろさに僕は驚きを隠せないでいる。
こんな河木くん…初めて見た。
「よ、良かったら…」
代わりに僕が河木くんの目をじっと見つめる。
(前までだったら、絶対見れなかったのに…)
慣れとは、本当に恐ろしいものだ。
後ろにいた風隼さんとひろさんもいつの間にかいなくなっている。
(……大丈夫、なのかな…)
自分の時は、男だから送らなくて大丈夫だと思っていたけど、河木くんが一人で帰るとなると心配になる…
好きな人が帰り際に…事故とか、あわないかな…なんて不安になってしまうのは、きっと重症なのだろう。
「は、羽野の…家…まで…」
(……え?)
「送って…」
おかしい…そんなはずない…
いや、この後に続く言葉は…たぶん予想しているものとあっている。
優しい河木くんだから…気にかけてくれたのだろう。
ただ……
どうして、それだけを言うために河木くんが頬を赤らめる必要が、あるのだ…?
自然と僕も心臓がドキドキと高鳴る。
「お、…送って…」
もう一度河木くんが同じセリフを繰り返した、その時だった。
「………冬麻?」
懐かしく、暖かい…けど、会いたくなかった人の声が耳に入ってきたのは
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