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┈┈┈┈❁⃘┈┈┈┈
(夏喜side)
……誰だ、この人…
突然耳に届いた羽野の名前を呼ぶ声。
透き通っていて、美しい…心地よいほどに落ち着いた、静かな声に俺は視線を向けた。
そこには少しだけ驚いたような顔をみせる、青のインナーカラーをした黒髪の男。
羽野をじっと見つめながら、その男はゆっくりと静かに近づいてくる。
羽野の顔を見ると、少しだけ青ざめていた。
(……羽野?)
心配になって肩をそっと掴もうとする。
ビクッ
(……え?)
しばらくなかった拒絶反応に、俺は手を引っ込めてしまった。
「な……なんで……」
羽野が小さくそう呟く。
目の前の男は小さく笑うと
「…なんだその格好…」
と苦しそうに顔を歪めた。
胸がざわざわと蠢き出す。
別に、目の前の男が危険人物だと察したわけでも、羽野が特別嫌がっている訳でもない…
(むしろ…)
むしろ、二人の間に、不思議な空間があるように感じられる。
上手くは説明できない…柔らかくて優しい、誰も邪魔出来ないような独特な空間……
俺が入ることを許してくれないような…二人だけの空間
それが何故か、俺の心を強くざわつかせた。
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