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中学2年の春、いつものように俺は屋上で作品に取り掛かる涼を見ながらただじっと座っていた。 「…冬麻」 「ん?なに?」 一度作品に取り掛かったら、周りを見えなくなる涼が珍しいことに、俺に話しかける。 「冬麻まで…俺の前から消えていかないよな…」 「……」 まだ、涼の心の奥深くにあるものを俺は知らない…けど 「消えないよ」 「……」 「消えない…俺は、涼の前から何も言わずに立ち去ったりしない…」 涼は作品から目を離しふふっと笑う。 「……じゃあ、もし…俺の前からいなくなったとしても、必ず探し出して、俺の元に帰らせるから」 「ははっ(笑)俺を捕まえてみてよ、紅月 涼さん」 俺はすっと立ち上がり、涼が取り掛かっている新しい作品の前に立つ。 「……これも、花がテーマなの?」 「うん、…そう」 「……何の花?」 「……「赤いラナンキュラス」、「フリージア」、の花畑…」 「…素敵な花」 「ふふっそうでしょ?…花言葉は「あなたは魅力に満ちている」 ・ 「純潔」「あどけなさ」「無邪気」……」 「……なんで、真ん中は空いてるの?」 「赤いラナンキュラス」と「フリージア」の中で不自然に空かれた真ん中の大きなスペース。 「ん?ここは…冬麻に好きな花を描いて欲しいなって…」 「え?俺?」 「そう、…お願い」 「…下手だよ?」 「下手じゃない」 強く言い張る涼対して、最近では言い返しても無駄だと分かり、言われたままでいる。 今回も「いいのかな?」なんて思いつつ、床に落ちてた筆を拾った。 そのまま筆を振りかざす。 「……これって…」 「……「向日葵」…」 「…ふふっ、冬麻らしいや」 「…そう?」 「うん…」 向日葵の花言葉 「憧れ」 「あなただけを見つめる」 「こんな人と出会いたいな…」 「向日葵みたいな人?」 「うん、憧れる…」 そのまま二人で何もせず、その作品をじっと眺めた。 「…俺はサザンカと一緒にいた方が楽しいけどなぁ」 「っば!?」 「ふふっ(笑)…教室、帰ろっか?」 「え?ちょ、ちょっと!」 涼はそう言うと俺の腕を引っ張る。 …かと思えば屋上の扉の前で領は止まった。 「……涼?」 「……俺さぁ」 「向日葵の花なんかに負けないからね?」 振り返り際、そう言い放った時の目は、 意志のこもった、美しい目だった。 これが俺と「タチアオイ」が過ごした ごく一部の話。

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