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┈┈┈┈❁⃘┈┈┈┈
「けど、違った。」
涼の言葉に思わず「え?」と声が漏れてしまう。
「冬麻と話すようになって、お前の家庭事情を知る度…決して見せない努力を感じ取る度……いつか消えてしまいそうで、ボロボロに崩れ去ってしまいそうで」
「……」
「その予想が…的中してしまった」
涼が俺の頭…おでこを優しく撫でる。
瞬間、少しだけ過去を思い出し…震えそうになった。
「…助けたかった、俺と…似ていない、誰よりも勇敢なお前を」
撫でていない方の手にぐっと力が籠る。
「……守りたかった、俺と同じ…誰よりも弱いお前を」
涙が…溢れ出てきそうだった。
もう…過去のことで泣きたくない。
「…お前が、あの頃のままだったら、あの三人に出会ってなかったら連れされたのにな…」
涼がふわっと微笑む。
「…強くなったな、お前」
「……っ」
けど、今日だけは…どうか泣かして?
「り、涼……ごめんなさい…突然、消えてごめんなさい」
「……ううん」
「一人にしないって…い、言ったのに……守れなくて、ごめんなさい…」
「…そのおかげで、…涼は強くなったんだろ」
涼が俺の眼鏡をそっと外す。
「…もう、タチアオイと似た、サザンカの姿はないね」
「……」
「あの絵のモデルは、どこかへ消えちゃった」
そう言う涼は、本当に美しくて…
「サザンカ」が思いを寄せていた
「タチアオイ」そのものだった。
けど、もう違う。
「だって、…僕はもう、サザンカじゃないよ?」
「……え」
サザンカの花は、もう捨てた。
あの頃の自分はもういない。
「僕は、何度踏まれても…立ち上がれる
雑草だから」
今の僕を傷つけられるのは、涼でも親でもクラスメイトでも…アイツでもない……
向日葵…ただ一人だけなんだ。
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