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本来ならリビングに当たるであろう部屋は、沢山の銅像が置かれていて、先程とは打って変わって粘土の土の匂いが取り囲む。
「…これって」
「あぁ、ブレスレット」
一際目に入ったのはシルバーに輝く、涼さんと羽野がお揃いだったブレスレット。
「これも、…涼さんが?」
眩しいくらいに美しいブレスレットを見ながらそう言うと微笑みながら「そうだよ」と返した。
羽野と涼さんの持っていたブレスレットもそうだったが、柄がとても細かい。
花に疎い俺でも、違う花の種類を忠実に再現されているのだと直ぐに分かった。
「これはね、冬麻も大好きな作品なんだよ」
「…作品?」
「そう、作品。俺が昔、展覧会でこのブレスレットを展示したんだ。そしたら、冬麻、めちゃくちゃ気に入って…あまりにも目をキラキラさせるもんだからあげちゃった」
「え、…じゃあ…お揃いなのって…」
「ん?…まぁ、俺が作ってるから、自然とお揃いにはなるよね(笑)」
汗がヒヤッと垂れてくる。
俺、やらかしたかもしんない…
(お揃いだなんて…大事なものだなんて…当たり前だ)
だって、羽野は元々涼さんの大ファン。
その作品の中でも気に入ってるブレスレットだなんて…
大事に決まってる…
思わず、顔を手で塞いでいると涼さんがふふっと笑い、
「なに?キスしたこと後悔しだした?」
なんて聞いてきた。
びっくりして顔を見ると、予想していたものとは違い、穏やかな…いつものふわふわしてる涼さん。
「…怒らない…の?」
蓮も陽斗も…少なからずは驚いていたし、呆れられた。
羽野の事が、誰よりも大切な涼さんの事だ。
…怒ることは、当たり前。
なのに…
「なんで怒んの?」
「…え、」
「まぁ、キスした事は不味かっただろうし、忘れてってセリフも…中々だよなぁ」
チクチクと言うその目は、穏やかなままで、ブレスレットに向けていた視線を俺に向ける。
「けど、傷つける為にしたんじゃないんだろ?」
「…え?」
「だったら、いいんじゃねぇの?…分かんないけどさ」
思いも寄らない言葉に、体が固まってしまった。
「もちろん、冬麻を傷つけるやつは許せないし、本来なら殺してやりたい位だよ?」
突然見せた、冷たい表情に背筋が凍る。
「…けど、傷つけた傷を癒すことが出来んのも、つっきーだけなんだよ」
涼さんは俺にブレスレットの一つを投げた。
「…冬麻を唯一傷つけられるのは、つっきーだけだし、癒すことが出来るのも…つっきーだけ」
キャッチしたブレスレットを見る。
そこには、「向日葵」の花が彫られていた。
「俺に殺されたくなかったら、羽野を癒してこい」
気がついたら、走り出していた。
(羽野を傷つけるのも、癒せるのも…俺だけ?)
頭の中で涼さんの言葉がグルグルと渦巻く。
どういう意味なのか、全く分からない。
何故、俺だけが羽野を傷つけられるのか、羽野を…癒してあげられるのか…
ただ、今会いに行かなくちゃダメな気がした。
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