232 / 437

┈┈┈┈❁⃘┈┈┈┈

(夏喜side) 煩い心臓を押さえつけ、とにかく落ち着けと自分を言い聞かす。 (落ち着け…冷静になれ…) 一向に収まる気配のない心臓を他所に、何か答えなきゃと羽野の顔を見た。 (…え) あんなにも煩かった心臓が、突然ドクンと音をたて、止まる。 顔の血の気が引いていくのが分かった。 (…泣い、てる?) 胸にズキンとした痛みが走る 顔を少し俯かせ、羽野は静かに涙をポロポロ流していた。 (………) 腕を伸ばし、羽野の頬にそっと触れる。 羽野の肩が大きく揺れた。 無意識に涙を拭いていた。 何も感じず…ただ、羽野が泣いてる姿を見ていたくなくて 羽野に触れたくて… 俯き気味だった羽野の顔が少しだけ上がり、俺を見る。 眼鏡のせいで、上手く表情が読み取れない。 (今、何を考えているの?) 案外分かりやすい羽野だが、基本は誰よりもポーカーフェイス。 今の羽野は、それを象徴しているようで焦れったくなった。 「なんで…忘れて欲しくないの?」 羽野の目をじっと見つめる。 先程聞いた時みたいに、肩が揺れたり等はしない。 ただじっと、目を離さずに俺の前にいた。 羽野の閉ざされていた口がゆっくりと開く。 「好きだから」 ポーカーフェイスだと思っていた羽野の声は震えていて、また一つ涙を零した。

ともだちにシェアしよう!