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羽野がポカーンと口を開ける。 「あ、あの…「どういう意味?」 「…え?」 そう聞いたかと思えば、羽野は口に手を当て少しだけ考え込んだ。 「…振られたん…だよね?」 羽野は真剣な目で俺を見つめる。 「えっと…振ってる…」 「…けど、…い、一緒にいたい…と……」 いや…俺、訳わかんないこと言ってるな。 「ごめん…自分勝手で…」 羽野の事を思えば今ハッキリして欲しいに決まってる… というか、そもそも羽野は返事をしないで良いと言っていた。 (とことん甘ちゃんだよな…) 答えなかったら羽野が俺から離れていくと思い、慌てて自分の希望を押さえつけているだけ 頭の中で小人サイズの蓮が俺を怒鳴りつけ、自分の子供っぷりに肩を落とした。 「ふはっ(笑)」 (……え?) 頭の上から聞こえてきた、思わぬ声に顔を上げる。 (……うそ…) 羽野が…笑ってる…… 「ほんと…勝手…」 そう言う口元は間違えなく上がっていて、聞いたことの無い、明るい声色。 「え、えっと…「分かった」 「…え?」 羽野はふぅっと息を吐くと、眼鏡をクイッと上げる。上がっていた口角が下がっていた。 「…今は、それでいいよ」 俺の顔をじっと見つめる。 「…え、いいの?」 自分で言っといて何だが…好きな人と変わらない関係というのは……きっと辛い。 ましてや、告白をしたんだ。 「…じゃあ、…付き合って……くれる?」 そう言う羽野の表情は、何処かしら緩んでいて… (…からかってる……よな?) 初めて見た、羽野の新しい表情。 (…これが本当の、羽野なのかな?) 中学の頃は…今みたいな見た目じゃなかったんだよな… 羽野からそう聞いても実感が湧かなかったが、 少しだけ、意地悪な羽野に中学の姿が頭をよぎる。 「…待つから、僕……」 「…うん」 「河木くんの気持ちが…ハッキリ、する…まで」 強いな…羽野は 俺なんかより、何倍も強い。 強いから、ここまで優しく出来るんだ。 「…ありがと」 こんな子に思われて…幸せだ 「…ちゃんと、考えるから」 だから俺は、真剣に答えなくてはならない。 何となくじゃなくて、ハッキリさせてから 「あ、…送るよ」 ふと当たりを見渡せば闇の中。 引き止めてしまった事もあり、送るよう言うが 「ち、…近いから」 と、羽野は断る。 無理矢理でも送って行こうか迷ったが、ソワソワとする羽野に違和感を感じ、思わず 「そっか…」 なんて言ってしまった。 「…じゃあ」 言ってしまったものは仕方がない。 名残惜しいが、そう小さく声を出す。 一向に歩き出す気配のない羽野にまたまた違和感を感じつつ (俺が先に去った方が良いのかな?) なんて解釈し、「おやすみなさい」と言うと歩き出した。 …のだが、 「か、河木くん!」 少し歩いた後、後ろから呼び止める声が聞こえる。 何だろうと思い後ろを向くと (…えっ) 腕を引っ張られ、直後に漂う一度嗅いだことのある強い香り。 柔らかくて、優しい感触。 目の前には、アップで映る羽野の姿。 (…キス、されてる) そう理解出来たのは唇が離れた後。 短くて一瞬にも満たない出来事だった。 放心状態の俺に、羽野はクイッと袖を引っ張る。 「し、仕返し…」 ドキンッ びっくりする俺を他所に、羽野はそのまま走って逃げていく。 キスと言って良いのかも分からない、一瞬の出来事に心臓が鳴り止んでくれない 人生の中で、一番と言っていいほどドキドキしていて 可愛いなんかじゃ言い表せないほど…気持ちが溢れ出ている 「……っ、…ずりぃ…」 思わず道端の真ん中で、頭を抱えながらしゃがみこんでしまった。

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