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そこからのことは、あまり覚えていない。 気づいたら無我夢中で走っていた。 「冬麻!!」 いつも一緒に帰っていた学校の道 冬麻が好きな本屋 たまに寄る公園 頭の隅では分かってる。 何も確証なんかなく、むしろあの事実が真実である可能性の方が低いんだってこと。 本当だとしても、冬麻がどうなるとかではないこと。 俺には何一つ関係ないこと。 けど… もし、もしあいつに何かあったら… 俺は…俺は、 「……涼…くんかい?」 「…え?」 聞き覚えのある、少し渋くて落ち着いた声に振り返る。 「……親父…さん」 そこにはよく雑誌や新聞で見かける有名人であり、冬麻の父親がいた。 「どうしたんだい、そんなに慌てて」 仕事帰りだろうか、高そうなスーツを纏った親父さんは驚いた顔をしながら俺の元へ駆け寄ってくる。 一度俺の展覧会に仕事で来た親父さんとは顔見知りになり、冬麻と仲が良いことも親父さんは知っていた。 「……あの、…冬麻…が」 自分の父親を嫌って…いや、恐れている冬麻にこの事を言うか一瞬迷う、けど… 「!?…冬麻がどうかしたのか…?」 息子の名前を出した途端に心配な表情を見せること人は、社長でも他人でも冷酷な人でもない。 たった1人の、冬麻の父親の顔だった。

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