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「…お…やじさ…」
携帯を覗くと、“羽野 知史”の文字。
その名前に少しだけ冷静になりつつ、息を吐くと指をスライドさせた。
《涼くん!!…息子は…》
「……」
言葉が上手く出てこない。
《…涼くん?》
「…あ、……」
少しだけ冷静になったはずの頭が、またこんがらがり出す。
親父さんに何を伝えたらいいのか、どういう状態なのか、…なんでこうなってしまったのか
再び悔しさ…怒りが湧いてくる。
《涼!!!》
「っ!?」
《何が起こってるのかは、分からん。けど、お前が焦ってどうする》
…びっくりした。
今まで親父さんと冬麻を重ねたことなど一度もない。
けど、一瞬…
親父さんが俺を呼んだ声が、冬麻が俺を呼ぶ声に重なって
『…涼!』
柔らかく微笑む、冬麻がふわりと目の前に広がった気がした。
「…場所は親父さんが教えてくれた工場内…」
口から勝手に言葉が出てくる。
「2階の階段近くの部屋で……冬麻が倒れていました。」
《………》
冷静に…今の状態を確実に…
「心臓は動いており、脈は安定しています。
…ただ」
冬麻の頭を優しく撫でる。
「……目に、酷い火傷が」
《……っ》
「至急、救急車をお願いします。今は心臓が安定してるものの、駆けつけた時はかなりゆっくり動いていたので…完全に大丈夫だとは言いきれません」
親父さんの息を飲む声が、聞こえる。
「一様、凍らしたお茶で目を冷やしてはいますが、…火傷からどれくらい経ったまでは…」
《…分かった。》
ふっと息を吐く音。
《近くに、羽野家の別荘がある。そこの手伝いの者を迎えに行かせる。……そっちの方が、救急車より早いだろう。》
「…分かりました。」
《……下まで下がれるか?》
無駄な心配をする親父さんに思わずふっと笑ってしまった。
いくら、冬麻より身長が低いからと言って舐めないでもらいたい。
「そこまで、弱くないですから」
一般男性より軽い冬麻を抱えるぐらい、なんてことない。
《……そうか、…冬麻を頼むよ》
親父さんは最後まで取り乱すことなく、冷静にそれだけ伝えると、電話を切った。
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