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「どうぞ、上がって」 「お邪魔します…」 冬麻を送りに、よく家の前まではついて行ってたが、中に入るのはこれが初めて。 変わり果てた外観とは違い、内装は白が基調で美しい、けど何故か緊張感のある “ 羽野家 ” イメージそのものだった。 「涼くん、一つ聞いてもいいかしら…?」 リビングの椅子に座り、優子さんがお茶を持ってきてくれる。 「はい」 「学校でどんな噂が立っているの?」 「………」 答えていいものか、分からない。 親父さんならまだしも、冬麻をきっと誰よりも思っている優子さんに伝えても大丈夫なのか そして、冬麻は知っているのか… 「数日前」 戸惑う僕に気付いたのか、ゆっくりと優子さんが話し出す。 「買い物から帰ったあと、冬麻の部屋から大きな物音が聞こえたの」 「……」 「何事かと思って、急いで冬麻の部屋に入るとね…」 優子さんが少しだけ声を詰まらせた。 「……冬麻の部屋が荒らせれていたの」 その言葉に俺は思わず息を飲んだ。 (…それって) 「誰かが家の中に入ったの」 その言葉と同時に過ぎる、憎きクラスメイトの顔 押さえ込んでいた怒りがふつふつと湧き上がる。 「けどね…」 そんな俺に優子さんの悲しくて優しい声が耳に入った。 「冬麻は荒らされた部屋にも、ばら撒かれた…卑猥な内容の手紙や盗撮の写真にも、一つも目に入ってないようだった…」 優子さんの目から一つ…涙がひとつ落ちる。 「ただ一つ、“ 裏切り者 ”そう書かれた手紙だけを握りしめてあの子は空を眺めて泣いていたの」

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