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河木くんは何の言葉も発さない。 ただ、少しだけ大きくした目を一度伏せ、口元に腕を当てた。 「羽野はさ…狡いよね」 「…え?」 思ってもいなかった第一声に、今度は僕が目を見開けてしまう。 (…狡いのは河木くんの方だよ) 思わず声に出かけた思いを、グッと心の中に留めた。 (狡いって…どの口が言ってるんだか…) むしろ、ため息までついてしまいそう。 河木くんの顔を、表情を見て 僕は何度期待させられるんだろうか。 初めて二人でファミレスに行った日も、誕生日会を開いてもらった時も…その日の帰りの時も 今だってそう。 気なんて無いくせに。 また、期待だけさせて終わらせるくせに 何で… 何で腕から覗き込む頬は、赤く染ってるの? 「河木くんの方が狡いよ…」 さっき心の中で留めた言葉を、小さく呟いても、河木くんは 「え?」 と言うだけで、声は届いてくれない。 (気なんて…無いくせに…) その言葉は、流石に勇気が出なくて、声に出てはくれない。 河木くんも… 期待だけさせて、返事はまだくれない。 いくらでも待つ 河木くんが納得のいく答えを出すまで、何年、何十年…何百年かかっても待つつもりだよ。 けどね、河木くん。 少しだけ、怖いんだ。 振られることも、友達でいなくなることも怖いけど、今はそれ以上に… いつか、河木くんに対して思いが爆発してしまう方が、何倍も怖い。 河木くんを苦しめてしまいそうな自分が、怖い。 ねぇ、河木くん。 河木くんは、 僕のことを好きになってくれますか?

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