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第8話
観察を続けて三週間、僕は先生の日課をまたひとつ知ることができた。
先生は本を売りに来るとき、必ず地下駐車場のエレベーター付近に車を停める。そしてカートを使い、エレベーターで三階まで上がって店舗に入るのだ。
僕はたまたま従業員入口から入ろうとした、まさにそのタイミングで先生に会うことができた。まるでスター俳優の出待ちをしていたファンのような気分だ。
しかし声をかけるには少し遠かったため、この日は何もせずに重そうに段ボールを運ぶ先生を見るだけだった。
また別の日、レジを打っていると先生の本を数冊買う客が来た。
昔は好きな作家の本は中古じゃなくて新品で買うべきだと思っていたが、中古だろうと新品だろうと、先生の本を手に取ってもらえるだけで幸せだ。それがきっかけで先生の本を買うようになればこんなに嬉しいことはない。
だが所詮先生は世間一般から見たら時の人であり、僕以外気づいた人は少ないだろうが現在は売れっ子ラノベ作家なのだ。
僕はラノベが嫌いなわけじゃない。苦手なのだ。文学小説の間隔の詰まった文字列が、凝り固まった言い回しが、美しい漢字とひらがなの並びが僕は好きなのだ。
ラノベは全くと言っていいほど僕の目には滑っているように思えてしまい、いくら敬愛する先生が書いた本だとしても、二度と読み返すことはないだろう。
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