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第13話
自分でも不格好だと思うが、僕は本来感情を表に出すタイプじゃない。先生への想いが特別なだけなのだ。案の定僕は怒りにまかせて暴言を吐きまくったあげく、すぐに疲れ果ててしまい、先生の隣にごろりと寝ころんだ。
間近で見る先生は今まで何度も見てきた著者近影やインタビュー記事の何よりも恰好良く見えた。
これが一目惚れというものか。
もちろん僕は何年も前から先生のことは好きだったが、あくまでそれは作家としての先生だ。そろりと手を伸ばして震える目蓋をなぞってみると、ひとすじの涙がこぼれ落ちる。
あまりに詩的な光景に、この人は生まれもっての作家だと思い知らされた。
「先生……やはりあなたは僕の心をとらえて離さない。どうしてあなたはそんなにも魅力的なのですか」
試しに先生の唇をなぞってみる。ガムテープ越しだといえ、形の良い薄めの唇だとわかった。神経質そうにも見えるが、この唇で僕のものを咥えたら、と下品な妄想までしてしまう。
僕にとって先生は聖域であるはずなのに、どうにかして僕の手中に収めてしまいたいと叶わぬ願望さえ抱かせる。
「あなたを愛しています……」
一度口に出したら止められなくなった。僕は夢中で先生の唇を貪り、先生が激しくもがこうとも執拗に重ね続けた。
やがて先生がおとなしくなった頃、僕はこの好機を逃せないとばかりに、先生のシャツのボタンを開けて現れた喉仏に喰らいつく。僕にも肉食系な嗜好があると知った。
人の愛しかたなんてわからない。僕は本能が導くままに先生の肉体を愛撫していく。
そうだ。『墨溜まり~』の濡れ場を再現してみよう。
流行作家の主人公が行きずりの相手となった女――彼女、もしくは彼が男だと知った後も自らの欲に流されて一夜を共にしてしまう重要な場面を。『墨溜まり~』の中盤の名場面だ。
彼らには特殊な性癖があった。
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