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第7話
「僕は、ある人に愛されています」
努の読み始めた原稿の出だしに教師は驚き、生徒は興味を惹かれた。
正直、真面目なタイトルばかりで退屈し始めて来たところだ。
努の強烈な一言は、重くなってきた瞼を開かせるには充分だった。
「僕は、正直言って陰キャです。クラスで僕に話しかけてくる人は、まずいません。友達も、いません」
次々に続く努のアドリブに、教師は焦った。
「何を言ってるんだ、明石は!?」
しかし、もう弁論は始まっているのだ。
壇上から引きずり下ろすわけにもいかない。
「だけどそんな中に、一生懸命僕に近づいて来る人がいます」
ここまでくると、努のクラスの生徒たちはそれが誰であるか見当がついた。
明石に唯一近づく人間と言えば、一人しかいないからだ。
それまで淡々と語っていた努は、ここで声を限りに叫んだ。
「僕は、梶 伸也くんに愛されています!」
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