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第2話

「大丈夫か、大谷。いけるか?」  教師の問いかけに、ふらつきながらもうなずく。 「はい、大丈夫です」  よろめく足で廊下を進んでいくと、応接室の横にかかっていた鏡に自分の姿が映っていることに気がついた。  大きな鏡の中には、胸が悪くなるような欲情に浮かされた青年がいる。  まっすぐな黒髪に、瞳は大きいがそれ以外は平凡な顔立ち。背丈は高校一年生の平均身長、体重はそれより少なめだ。  今は『発情(ヒート)』という特殊な状態になっているために、瞳はうるみ、表情は誰彼かまわず誘う娼婦のようにあだめいている。  夕侑は自分のそんな姿に不快感を覚えた。  教師と一緒に急いで校舎を走り、裏口から外に出て、敷地の西に広がる森へと進む。 「早く、早く」  森の手前の空き地には、鉄製の頑丈な柵が、直径五メートルほどの円を描いて設置されていた。  その真ん中に三メートル四方の檻が用意されている。周囲には、発情抑制剤を注射した教師らがひかえていた。  十人ほどいる教師の中から、白衣を着た学校医の神永(かみなが)が近づいてきた。 「大丈夫かい、大谷君」 「はい、まだ動けます」  夕侑は神永の手をかりて、檻の中に入った。  檻に鍵がかけられ全員が柵の外へ出ていく。  すると数分たたずに、校舎からワラワラと肉食獣の群れが出てきた。  狼、ヒョウ、虎、ハイエナ、熊――。  それらは先程まで教室でおとなしく授業を受けていた生徒たちが変化(へんげ)したものだ。  彼らは皆、目を見ひらき、牙をむいてよだれをたらしている。  雌を襲って孕ませようとする雄の形相だ。  夕侑は怖気立った。  発情耐久訓練は今回で四度目だが、回を重ねるごとに彼らの情欲は強くなっている気がする。

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