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第4話 シェルターで

 夕侑の通う私立王森学園は、富士山麓に広大な敷地を持ち、日本全国から集まった文武に優れた獣人の生徒らが日々勉学にいそしむ全寮制の進学校である。  現在、夕侑はこの学園の高等科一年に在籍していた。  この世界には、人口の九割にあたる『獣人』が存在する。残りの一割は『ヒト』のままだが、遺伝学的に『生粋の人間』はほとんどいない。  大昔は、獣人などこの世には存在しなかった。人間はすべてヒト型でしかなかった。  しかし百年ほど前に世界的なウイルス性疾患が流行し、その影響で遺伝子が変異して新たな人類が誕生した。  多くの人々は、ネコ目の獣の姿と、ヒトの姿を自在に変化させることができるようになり、世界にはさまざまな獣人があふれるようになった。  現在では、獅子やヒョウ、熊や狼など多種多様な獣人が街中(まちなか)を闊歩している。  そして同時に、この変化はもうひとつの奇異な現象も生み出した。  人間に、新たな性別である、バース性と呼ばれるものが発生したのである。  人類には男女というふたつの性別があるが、それとは別の性が、この疾患の影響で遺伝子上に生まれ出でた。  バース性には、三種の性が存在する。それぞれ、その特性上からアルファ、ベータ、オメガと分類されるが、このうちアルファは、性器の根元に独特な瘤を持ち、知性、体力ともに優れた特別な種で、人口の0.1パーセントを占めた。  逆にオメガは人口の0.01パーセントしか存在せず、男女ともに子を産むことが可能な希少種であり、そして残りのごく普通の人種はベータと分類された。 オメガは生物学的にはひ弱な種だったが、『発情(ヒート)』と呼ばれる発情期を向かえると、強力なフェロモンを発してアルファを誘うという特色があった。  獣人は嗅覚も鋭い。オメガの発情にとらわれたアルファは、オメガを襲いたいという欲望から逃れられなくなる。  そのためオメガ絡みの性犯罪はバース性の誕生以来、とだえたことがなかった。

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