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第5話

 理性も吹き飛ぶ嵐のような発情に、平穏な生活を壊されたアルファとオメガは数知れない。  獣人はフェロモンにあてられるとヒトの姿から獣化し『バースト』と呼ばれる『ただの獣』の状態に陥ることがある。  バーストしたアルファ獣人はときに行為の最中にオメガを殺してしまうこともあり、その対策は大きな社会問題となっていた。  王森学園は、幼稚舎から大学まで一貫したアルファ獣人のみを受け入れる男子校であり、将来有望な若者たちのために、独自の発情対策を検討していた。  そのうちのひとつが発情耐久訓練である。オメガのフェロモンを体験し、それにさらされたときどのように対処すべきかを学ぶ教練が設けられていた。  そして夕侑は、訓練のために特別に高等部から入学を許可されたオメガの奨学生だった。  獣人に変化しないヒト族のオメガである夕侑は、獣人よりフェロモンが強いのでこの訓練に最適なのであった。 「抑制剤の効きが悪くなっているな」  学生寮の保健室で、夕侑の診察をしている神永が手にしたフェロモンカウンターを見ながら言った。 「君に薬を投与してから三時間たつが、まだ正常値におさまっていない。これは多分、君が入学前に、施設で与えられていた粗悪な抑制剤が原因だろう」  診察台に座った夕侑は、ほてる身体を持てあましながら神永の言葉を聞いた。訓練中、強い発情で意識を失った夕侑はここに運ばれ、抑制剤を投与されて休んでいた。 「……そうですか」  横においてあった学校指定のジャージを引きよせ、羽織りながら答える。  夕侑は生まれてから十五歳になるまで、オメガ専用の児童養護施設で育てられてきていた。  生まれてすぐに、施設の玄関前に捨てられたからだ。きっとオメガだった夕侑を、両親はうとんじたのだろう。そういう理由で捨てられるオメガの赤ん坊は多い。 「すみません」 「いや、これは君のせいじゃないよ」  夕侑の謝罪に、神永が首を振る。

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