7 / 112
第7話
将来は日本の経済界を背負って立つであろう、アルファ獣人の頂点に君臨する獅子の化身である男は、上流階級に属する人間らしくいつも自信に満ちあふれ、他の者を圧倒するオーラをまとい、それにみあう知能と運動神経を持ちあわせている。
しかし、彼の存在は夕侑にとっては恐いものでしかなかった。獅子族アルファには過去に大きなトラウマがある。
夕侑は獅旺の視線をさけて、神永に頼んだ。
「先生、薬をもっとください」
学校医の神永は医師免許を持っているので、診察をして薬の処方をすることができる。学園側からオメガの菅理を一任されている立場であるから、頼めば薬を出してもらえると思ったのだが、神永は眉根をよせて却下した。
「ダメだよ。これ以上の投薬は危険だ。仕方ない。じゃあ、シェルターに入っておさまるまですごそうか」
シェルターは発情したオメガのための避難所で、学生寮の裏庭に設置されている。夕侑も発情がおさまらないときはそこですごす。
神永の診断に、横から獅旺が口をはさんできた。
「シェルターに入ってもむだですよ。ヒトのフェロモンは強力だから、換気口のフィルターも通過します」
「なら、やっぱり薬をください。どうにかして、これをおさめないと」
夕侑の懇願に、神永が首を振る。
「過剰投与は、君のためにならない。子供が産めない身体になる」
「かまいません。子供なんて産むつもりは全然ないです」
すると、獅旺の後ろにひかえていたもうひとりの生徒が前に出てきた。
「先生、だったら僕らに提案があるんですけれど」
それはユキヒョウ族の獣人である、副生徒会長で、副寮長の白原 だった。
夕侑に対してはいつも優しく接してくれる、獅旺とは真逆の落ち着いた物腰の上級生だ。
「提案?」
神永が、白原に目を向ける。
ともだちにシェアしよう!