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第9話
神永はしばし思案する様子を見せた。額に手をあてて、考えこむ顔をする。
「先生、早くしないと匂いをかぎつけた寮生がまた獣化してしまいますよ」
「先生、絶対に嫌です。薬をください」
夕侑の頼みに、獅旺が冷たく告げる。
「発情中のオメガ奨学生に、物事の決定権はない。就学規則に書かれていたはずだ」
神永は仕方がないというように、深くため息をついた。
「たしかに、それが一番効果があるし自然な方法だ。薬よりもずっと効くだろう。――まったく、医師である僕が相手をして処置してあげられればいいんだろうけど、僕には番がいるから、効果は薄くなってしまうだろうしね」
そう言う神永の左薬指には指輪がはまっている。
「……先生」
夕侑は震え声で、神永にすがった。
「一度だけ、試してみよう。それでダメだったら別の方法を考える。そして、このことは絶対に外部に漏らさないように」
他にいい手だてがないようで、神永が渋々了承する。学校医の答えに、獅旺と白原が顔を見あわせうなずいた。
「ならすぐにシェルターにいこう。あそこなら邪魔は入らない」
獅旺が手をのばしてきて、夕侑を抱きあげる。
その瞬間、皮膚が電撃を受けたようにビリビリッと痛んだ。
「――やっ、や、やだっ」
逃げようとすると、獅旺が不思議そうな顔をする。
「何でそう嫌がるんだ。お前だって俺たちが欲しいだろう?」
「あなたたちは、僕を使って、ただ単に性欲を満足させようとしているだけでしょう」
上級生に対する態度ではなかったが、言い返さずにはいられなかった。それに獅旺はかるく笑った。
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