10 / 112
第10話
「そうだ。二ヶ月ごとの、お前の発情にあわせた訓練で甘ったるい匂いをかがされて、こっちはもう我慢ができなくなってる。寮長権限で、こっそりいただこうって考えだ」
「……そんな、ひどい」
「お前も、それで楽になれる」
性欲処理のためだけのように言われて、夕侑はショックを受けた。アルファにとって、オメガはそういう存在でしかない。
それでも、獅旺の身体から漂うアルファ特有の匂いに、欲望がじわりと疼く。
獅旺の野性的な香りに、訓練のとき獅子となった彼が、檻に襲いかかる獣たちを次々になぎ払っていった姿を思い出した。
あのとき獅旺は、きっと獲物を自分だけのものにしようとする本能から、他の獣を押しのけたのだろう。けれど夕侑には、まるで自分を助けにきてくれた雄々しい勇者のようにも見えたのだった。
――獅子なのに。怖いだけの、存在なのに。
そうして、この学園に入学した日のことが脳裏によみがえる。
入学式で、講堂のすみの特別席に座っていた夕侑は、在校生代表で祝辞をのべた獅旺を遠くから見て、その堂々とした振る舞いに雷で打たれたような胸の震えを感じたのだった。
まるで、運命の相手を見つけたかのように。
その晩、夕侑はとてつもなく激しい発情に襲われシェルターの中で悶え苦しんだ。抑制剤もまったく効かなくて、自分が何か怖ろしい生き物に変わってしまったかのようで、泣きそうになりながら欲望をなだめてすごした。
あの人が欲しい。抱いて欲しい。心も身体も自分だけのものにしたい――。あのとき獅旺に感じたのは、恐怖と同時に抗いがたい魅力だった。
その感覚が肌に戻ってくる。
抵抗をやめた夕侑を、獅旺は肩にヒョイと担ぎあげた。
ともだちにシェアしよう!