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第12話

 オメガはうなじにフェロモンを分泌する(ふくろ)を持っている。  ここをアルファに噛まれると、嚢が破けてアルファの唾液とフェロモンの成分が結合し、オメガの体質が変化する。  噛んだ相手と(つがい)になり、フェロモンはその相手にしか作用しなくなるのだ。  夕侑が身を縮こめながらベッド脇に立つと、獅旺が一歩近づいてくる。反射的に一歩さがった。  夕侑の態度に、獅旺の片眉があがる。 「お前はいつも、俺をさけるな。前の訓練のときもそうだった。俺は今までそんなふうに、他人にあからさまな嫌悪を向けられたことがない。どうして俺がそこまで嫌いなんだ?」  獅旺が単純に不思議そうな顔をした。  彼ほどの人物ならば、尊敬や好意、悪くてもお世辞や媚びぐらいしか受け取ったことがないのだろう。 「……獅子族は、怖いんです。……昔、怖い目にあったから」  怖い目、とオメガが言えば、それはほぼ性的なことになる。獅旺は目をみはり、それから凜々しい眉を不愉快そうに歪めた。  どこの誰かはわからぬ同族の咎に、それ以上は聞かず白原に顎をしゃくる。 「なら、ユキヒョウは怖くないのか」  ユキヒョウ族の白原がこちらを見て、ニコリと微笑む。夕侑は小さくうなずいた。 「じゃあ、僕がしてあげよう。獅旺は残念だけれど、見てるだけだね」  白原は獅旺に優越をふくんだ笑みを見せると、夕侑の横にきて腰を抱いた。  獅子とはまったく違うさわやかなアルファフェロモンにクラリとくる。すると、抱かれる期待が全身をおおっていく。尻の狭間がうるむのがわかった。オメガは性行為を予感すると、後孔が濡れる。  はしたない身体。だらしない本能、あさましい欲望。オメガの性が心を蝕んでいく。  夕侑は悲しみをこらえながら目をとじた。  白原の顔が近づいてきて、キスされそうになったその瞬間、横からグイッと腕を強く引かれた。

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