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第20話
十月に入り、夕刻の風は肌寒くなり始めている。
窓の外の枯れ始めた木々を眺めながら、この学園にきて四度目の訓練も何とか終えることができたと、ホッと息をついた。
オメガである自分の身のうちには、欲望の壺というものがあって、それは時間と共に甘い液体で満たされていく。満杯になれば、誰かに飲み干してもらいたいという願いに頭が支配される。
それを、昨日は獅旺と白原が壺の内部まで舐める勢いで空にしてくれた。
あれはただの、本能にまかせた行為だったのだろうか。アルファ獣人は、オメガが相手なら誰に対してもあんな風にするのだろうか。
獅旺は、夕侑を助けるために抱くのだと言った。
――お前も、それで楽になれる。
もしも彼の行為がただの親切だけだとしたら。
セックスが愛情を示す行為ではないと、心にきちんと刻まねばならないだろう。下手な期待は、自分を傷つけるだけだ。
あの行為に、心はない。
そう考えながら、自分の部屋に向かって歩いていると、ふと、廊下のはしに何かが落ちているのに気がついた。
小さな塊が、床に転がっている。
近よっていき、何だろうと見おろす。それは人形のストラップだった。
「……あ、これ」
思わず手に取り、まじまじと眺める。
古いシリコン製の人形は、夕侑が小学一年生だったころ、流行していたテレビアニメのヒーロー、サニーマンだった。
八頭身の身体に、赤を基調としたボディスーツ。ベルトは太陽の形をした黄金色で、短いマントを羽織っている。正体がわからないように顔につけられたマスクは、ロボットのようなデザインになっていた。
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