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第22話
目のはしに夕侑をとらえた獅旺が、顔をあげてくる。片眉を持ちあげ、見られていたことに少し気まずそうにした。
夕侑が無言で、人形をさし出す。すると獅旺は目をみはった。
「もしかして、これを、探してます?」
「いや違う」
獅旺は即答した。
「別に、探しものをしていたわけじゃない」
そう言うと、くるりと踵を返して廊下を歩いていってしまう。
「……」
夕侑は呆気に取られて、その後ろ姿を見送った。
しかし、獅旺は通路を大股で進んでいくと、どうしてか途中で不意に立ちどまった。
振り返り、またずかずかと戻ってくる。驚く夕侑の前までやってきて、両腕をグイと掴んだ。
「――」
首輪のはまったうなじに、いきなり顔をよせる。そして形のよい鼻を、すん、と鳴らした。
「発情はおさまったようだな」
「え、……は、はい」
頬と頬が触れあう距離で話されると、発情がぶり返しそうになってしまう。
夕侑は身をすくませた。怯える夕侑を見おろしながら、なぜか彼は苦い声音で言った。
「昨日は、白原がいたのは仕方がなかったんだ。俺ひとりだとお前は怖がるから、奴に手助けしろと頼んだ。けれど、次は、俺だけが相手をするようにしておく」
上からな物言いで、けれど弁解するように言う。
どうしてそんなことを言われるのかわからなくて戸惑うと、獅旺は夕侑が嫌がっているのだと思ったのか、顔をしかめて手を離し、一歩さがった。
「獅子はどうしても嫌いか」
「……え」
いきなりきかれて、さらに戸惑う。
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