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第23話

「しかし嫌いなままでは、俺もうまく抱けない。それでは、そっちも困るだろう。だから直す努力をするんだ。カウンセリングも受けたほうがいい。神永先生には、俺から頼んでおくから。わかったな」 「…………」  命令調で自分の意見をまくしたてる。しかもどういうわけか、彼の中では夕侑はもう彼のものになっていて、言うことを聞くのはあたり前だと思いこんでいるようなふしがある。 「返事は?」 「あ、はい」  気迫にのまれて、つい返事をしてしまう。夕侑の答えに満足したのか、獅旺は「うん」とうなずいた。 「じゃあ、今日はきちんと休んで、体調を整えておくんだ。お前は細っこいし、ヒト族だから体力も獣人より劣る。次の発情までには、たくさん食べてもっと体力をつけておけ」 「え」 「でないと抱くこっちも心配になる」 「…………」 「返事は?」 「は、はい」  夕侑の答えに満足したのか、獅旺はもう一度「うん」とうなずくと、今度こそ廊下の向こうへと歩いていった。  残された夕侑は、何とも一方的な会話に唖然とした。  上流階級の人間は、格下相手にはああいう上から目線な態度しか取らないのか、それともあれが獅旺の元来の性格なのか。こちらの心情はおかまいなしな身勝手な話し方に面喰らう。  けれど、何となく夕侑の身体を案じてくれているような気もしてしまうのは、思いすごしなのだろうか。 「……きっと、獲物は太らせてから食べた方がいいっていうから……」  あれも獣人特有の考え方なのだろう。  夕侑は彼との立場の違いをひしひしと感じながら、ストラップを手に、自分の部屋へと戻っていった。

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