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第26話

「大谷、お前、それだけで昼まで腹が持つのか?」  話の途中で、獅旺が夕侑のトレーを見ながらたずねてくる。 「え?」  うつむきがちに食事をしていた夕侑は、ななめ前の相手に顔をあげた。  トレーには小盛りの白米と味噌汁、サラダと卵焼きに桃のゼリー。そして今日はもうひとつ、ツナとほうれん草のごま和えがのっていた。 「はい。十分です」  獅旺のトレーを見ると、五百ミリリットルの紙パックの牛乳に、大きなパストラミのサンドイッチがふたつ、それからフルーツに、ヨーグルトがならんでいる。見るだけでお腹が一杯になりそうなメニューだ。さらにナプキンに包んだスコーンが三つ。きっと休み時間にでも食べるのだろう。  白原のトレーも同じほどの量がのっている。獣人の旺盛な食欲に、夕侑は驚かされるばかりだった。 「ヒトってのは小食なんだな」  獅旺がサンドイッチにかぶりつきながら言う。彼が口をあけると、尖った犬歯が目に入った。それが昨日、自分のうなじを何度も噛もうとしていたのだと気がつくと、夕侑は落ち着かない気持ちになって目をそらした。  そそくさと食事をすませ、先に部屋に戻ろうとポケットの鍵を探る。すると指先に硬いものが触れて、夕侑はストラップを持ってきていたことを思い出した。 「あ、そういえば、これを」  取り出して、白原に手わたす。 「何だい? これは」 「落としものです。廊下で拾って。落としもの担当は、白原さんでしたよね」 「たしかに僕だけど。でもこれ、ゴミじゃない? 誰かが捨てたんじゃ?」 「いえ。そんなことないと思います。多分、落とした人は探してるんじゃないでしょうか。今はもう手に入らない古いものだし、ずっと大切に持っていたように思えますし」 「そうなの?」

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