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第29話

 大切な友人も、バーストしたアルファ獣人に襲われ命を落としている。  その経験が、夕侑に自立したオメガになりたいという強い目標を持たせていた。オメガだからといって発情に振り回されるだけの人生は送りたくない。自分はまだ恵まれているほうなのだ。だから、この恩恵を自分だけのために使ってはいけない。オメガは弱い。結束して強くならなければ。  今までたくさんの不幸なオメガを見てきた夕侑は、アルファと番になりその庇護のもとで幸せになるという道を選ぶことに、どうしても抵抗を覚えるのだった。  学生寮の自室に戻ると、夕侑はまた勉強机に向かった。今日の復習と明日の予習。この学園の偏差値は高い。  オメガである自分は、元来さほど優れた頭は持っていない。だから必死になって勉強しなければ、皆についていけないのだった。  苦手な数学に頭を痛めつつ、教科書のページをめくり、例題を読んで問題を繰り返し解いていく。そうしていたら部屋のインターホンが鳴った。 「はい」  誰だろうと、立ちあがってモニターを見る。廊下には白原がいた。 『やあ。勉強中だったかい』 「はい」  白原はカメラ越しにニコリと笑ってきた。 『ちょっと休憩して、僕の部屋にお茶でも飲みにこない? それから、以前言っていた、参考書と問題集の古いのをあげるよ。取りにおいで』 「本当ですか」  夕侑は弾んだ声で答えた。  教科書と学習準備金は学園から支給されているが、それ以外のものは自分でそろえなければならない。施設出身の夕侑には参考書などを購入する余裕はなかったから、譲ってもらえるのならすごく助かるのだった。

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