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第30話
さっそく鍵を解錠して、廊下に出る。
「ありがとうございます。白原さん」
「構わないよ。僕も暇だったしね」
白原は優しげな微笑みを浮かべて言った。
昨日のシェルターの一件があっても、変わることなく親切にしてくれる姿に安堵する。
「家から送ってきた焼菓子の詰め合わせがあるんだ。ガレットやフィナンシェがたくさん入っててね。僕ひとりじゃ食べきれないし。君は甘いものは好き?」
「はい。大好きです」
「それはよかった」
部屋を出て、話しながらふたりで寮の二階にある寮長室へと向かった。白原は獅旺と同室だった。
「さあ、入って」
ドアをあけた白原にうながされて中に入ると、そこは十二畳ほどの、長方形のシンメトリーな造りのふたり部屋となっていた。
机にチェスト、本棚にカーテンのかかったベッドが、それぞれ対になっておかれている。
右側が白原のスペースらしく、きれいに整頓されていた。左側は獅旺の空間のようだ。少し乱雑で、服や本が出したままになっている。そして本棚には目を引くものがいくつも飾られていた。
思わずそちらをじっと見てしまう。
「……」
棚には、ケースにおさめられたフィギュアがきれいに並んでいた。大小様々な色とりどりの人形は、どれもアメコミのヒーローのようだ。
「わりと子供っぽい趣味だろ。あの見た目で」
夕侑の視線の先を見ながら白原が笑う。夕侑は誘われるようにして本棚の前まで歩いていった。高価なフィギュアなのだろう、すべて精巧な作りで今にも動き出しそうな生き生きとしたポーズを取っている。
けれど、その中にサニーマンはなかった。
「さあ、こっちへおいで。お茶とお菓子があるよ」
白原に呼ばれて、夕侑は彼のスペースに移動した。
勉強机に用意された紅茶と厚焼きクッキーをふたりでつまみつつ、白原がクローゼットの奥から出してきた一年生用の参考書類を一緒に眺める。
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